ひこうき雲の彼方へ ~Beyond the Contrail~

 

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第1回:ごあいさつ


 はじめまして。NATO日本政府代表部にて防衛駐在官として勤務している石渡宏臣(いしわたひろおみ)と申します。慣れた自衛隊での勤務から、私の人生において全く予想していなかった外交の表舞台での仕事に変わって早2年、安全保障情勢変化に悪戦苦闘しながらも日々最前線にて頑張っております。2018年7月1日にこのNATO日本政府代表部は開設され、私は日々の仕事を通じて、NATOが我が国にとってより身近な存在となり、日本とNATOとの協力関係がより具体的に深化していることを感じています。
 本コラムでは、防衛駐在官として欧州の首都であるブリュッセルで気付いたこと、興味深く感じたことなどを皆さんに紹介していきたいと思っており、ヨーロッパに広がる青空のキャンパスに私自身が自由に感じた軌跡を描くことをイメージし、コラムのタイトルを「ひこうき雲の彼方へ~Beyond the Contrail~」としたいと思います。
では、皆様“Cleared for Take Off !”(離陸を許可します)。


【「防衛駐在官」って何ですか?】

 防衛駐在官という職業はなかなか聞き慣れないものですし、正直なところあまりなじみのない職業だと思います。防衛駐在官とは、防衛省から在外公館に出向した自衛官で、防衛に関する事務に従事する者のことです。私は、在ベルギー日本国大使館及びNATO日本政府代表部の防衛駐在官であり、ベルギー国防当局、NATO本部及び駐在する他国の駐在武官との情報交換等に加え、具体的な調整業務や交渉等を担っています。
 また防衛駐在官は、ベルギー及びNATOに対しては、防衛省・自衛隊を代表する存在であり、ベルギーの建国記念日や第1次世界大戦終戦記念日などの国家行事への参加、NATOに対する防衛省の代表としてのみならず、政府専用機による総理来訪時の運航業務や空港での支援等も行っています。
 日本とNATOとの協力は、2014年に安倍総理とラスムセン前NATO事務総長との間で具体的協力項目に関する政治文書である「個別パートナーシップ協力計画(IPCP:Individual Partnership Cooperation Program)」を締結して以来、質・量ともに拡大を続けています。特にサイバー防衛や海洋安全保障分野での協力は進展しており、今回のNATO日本政府代表部の開設は、日NATO協力関係の着実な深化の賜物と言えるのではないかと思います。このような歴史的な節目に当代表部で防衛駐在官として勤務できることを大変光栄に思っております。



【欧州情勢雑感】
 私が2年前にブリュッセルに着任して以来、国際情勢の激変を日々実感していますが、欧州内においては、パリやブリュッセルなどでの同時多発テロ、イギリスの欧州連合離脱決定、トルコで発生したクーデター未遂やカタルーニャの分離独立運動、移民・難民問題など、情勢がより不安定になったと感じています。また目に見えるような不安定要因のみならず、サイバー攻撃や偽情報など目に見えない脅威にもさらされており、欧州各国はそれらへの対応にも苦慮しているように見えます。
 これらの諸問題に対してNATOは、加盟国国民の安全に対する脅威を抑止・防護するために必要なあらゆる能力を保持して共同で防衛すること(集団防衛)のみならず、欧州域外の危機・紛争に対して必要な場合には、危機の防止や管理、紛争後の安定化及び復興支援などの活動(危機管理)やパートナー国や民間分野を含む他機関との協力(協調的安全保障)により問題解決を図ろうとしています。また、EUもその組織の特性を活かして自由、民主主義、人権および法の支配等の価値に重きを置いて、特に地中海やアフリカ等における人道分野での文民・軍事ミッションに貢献しています。
 このように欧州各国は、現在でも諸問題に対して知恵を絞ってNATOやEUのような枠組みを活用し、先の大戦や冷戦時代を教訓として試行錯誤を重ねながら、二度と同じような惨禍を繰り返さないという強い意志を感じることができます。
 折しも今年は、第1次世界大戦の終戦から100周年目であり、当時の主戦場の1つであったベルギーでも様々な行事が開催されており、私は11月11日の終戦記念日に記念式典に出席する予定です。
 現在私は欧州の首都において防衛駐在官として、このような歴史的転換点の目撃者として、厳しい安全保障情勢の中に身を置き、冷静に政治経済軍事など多数の事実を集めて、今後の情勢を洞察して、先手を打ちながら様々な仕事をしております。私の自衛隊での勤務経験(気象予報)に例えれば、様々な客観的事実を収集(気象観測)したうえで一般的な情勢を地図上に投影し(地上天気図作成)、様々な外交・安全保障の理論(解析及び数値予報)に基づく予測を地図上に描き出し将来を予測する(予想天気図作成)という点で、基本的な考え方は気象予報と同じだなとも感じています。
 ちなみに、気象予報の始まりも欧州にあるのをご存じでしょうか。その契機は、1854年のクリミア戦争であり、黒海上で暴風により英仏連合艦隊の戦艦が戦闘開始前に多数失われたことにあります。この戦争の教訓を通じてフランスは、現在の気象状況(風向、風速、気圧など)を地図上に表し、それを時系列的に見て将来の天気を推測するという気象予報の考え方を進化させました。その後、イギリスの数学物理学者であるリチャードソンが、気象状況を物理的にとらえて数理モデル化(いわゆる「(偏)微分方程式」です。)し、それを無謀にも人海戦術で計算することによって将来の天気を予報するという現在の気象予報の基礎を築いたのです(気象業界ではこれを「リチャードソンの夢」と呼んでいます。もちろん今は、スーパーコンピューターにより計算しています。)。


 このように欧州で防衛駐在官として勤務できることを誇りとし、日本とも繋がっている欧州の空を眺めながら、私が見たことや感じたことを今後も発信していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。



NATO日本政府代表部
参事官 兼 防衛駐在官 1等空佐
石渡宏臣

平成9年防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊。気象予報士。航空気象群(三沢)、防衛大学校理工学研究科入校、航空気象群(府中)、指揮幕僚課程入校、防衛政策局防衛政策課、航空支援集団司令部、航空幕僚監部教育課、航空気象群春日気象隊長、統合幕僚学校入校、防衛研究所一般課程、NATO国防大学(ローマ)留学を経て現職。

 
 

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