ラブレター・フロム・ブラッセルズ

 前へ

記事一覧へ

次へ 

 

第二十五回 情けは人の為ならず(Kindness is never lost.)

欧州パブリック・ディブロマシー大使

Source: http://cybersecforum.eu/

 私は、駐ベルギー大使と、NATO日本政府代表の2つの肩書を頂戴していますが、実は、これに加えて、「欧州パブリック・ディブロマシー担当大使」という役割も頂いています。原則を言えば、欧州各国には、それぞれ大使が任命されており、その国でパブリック・ディプロマシーを役割の一つとして担い、しっかり対応しているのですが、時には、特定の分野での重要なセミナーや会合に際して、パネリスト等として東京から当局者の出張が求められる場合もあります。一方、時間や予算の制約もあり、当局者が常に東京から欧州までやって来られる訳ではありません。そのような時に、予め地域にそれに対応する役割を持った人間を置いておくことには、一定の合理性があると思います。同じ人間がその地域で色々な会合に出席すれば、ネットワークも広がるし、それに応じて、プレゼンスをより示しやすくなるという面もあります。

このような役職が作られたのは今回が初めてで、私も、どのように職責を果たすべきかを常に試行錯誤の毎日です。ただ、欧州の各大使館から出てほしいと声を掛けて頂く会合などには、できるだけ参加するように努力しています。ちなみに、バカンスを過ぎた9月からの2ケ月半で見ると、次のようになります。

Source: Valdis Kaulins, as well as The Riga Conference 2015

◾9月10日~12日;リスボン郊外のアラビダ修道院で行われたアラビダ会合で日中インド関係のパネルに参加。
◾9月27日~30日;ポーランドのクラコウ開催の第一回欧州サイバー・セキュリティ会合で、国際協力のパネルに参加。
◾10月21日~23日;リトアニアで、2回の講演。
◾10月30日~11月1日;マラケシュで行われたGMF(German Marshal Fund)主催のアトランティック・ダイアローグで、アフリカ・中南米に対する日中インドの進出に関するパネルに参加。
◾11月3日~4日;ロンドンで行われたキングス・カレッジと笹川財団による海洋安全保障を巡る日NATO協力に関するワークショップで、昼食講演。
◾11月6日~7日;ラトビアで行われた第10回リガ会議に出席。

年末までには、もう一つ、12月冒頭に、ベルリンで行われるECFR(欧州外交問題評議会)主催の日欧関係の将来に関するセミナーで、いくつかのパネルに出させて頂く予定です。

「東」と「南」

現在の欧州で、どこに行っても議論されるのは、「東」と「南」への対応如何です。
 「東」の中心は、言うまでも無くクリミアとウクライナの問題と、その先にあるロシアへの対応です。これは、ウクライナ問題の解決をどうするか、ということに留まらず、欧州拡大との関係で、モルドバ、ジョージア、更にはベラルーシにどう対応すべきか、NATO・EUの最前線に立つバルト三国の不安にどう応えるか、いわゆる「ハイブリッド戦(内戦と本格的戦争の中間の紛争)」への対応をどうするのか、今盛んにおこなわれている宣伝戦へどう対処するのか、更には、広い意味で、今後のロシアとの関係をどう考えるのか、といったような、内容も時間軸も非常に幅広い問題です。
 「南」とは、まずは、「南東」でのシリア、イラク、そしていわゆるISへの対応と、欧州への洪水のような難民流入にどう対処するかですが、最近は、「南西」まで広がる、より幅広い「不安定の弧」への対応、具体的には、リビア、ソマリア、南北スーダンや、マリ他のサヘル地域5ケ国などの「脆弱国家(政府の力が十分及んでいない国家)」を如何に安定に導くかの議論が、だんだんと増えてきています。
 そして、当然ながら、東へ行けば行くほど「東」の問題の、西または南に行けば行くほど「南」の問題の比重が高まります。

「情けは人の為ならず」

Source: GMF Atlantic Dialogue

この中で私の役割は、まずは、これらの問題について日本が情勢をどう見て、政策目的として何を重視し、そのために何を行っているか、をわかり易く説明し、理解を高めることですが、同時に、欧州諸国がやるべきことについての意見を述べることも重要だと考えています。なかなか思うようには行きませんが、そもそも、その場に居なければ何も始まらないので、今後も限られた時間の中で、努力していきたいと思います。

 最後に、最近出た会議の中で、印象に残ったことを一つ紹介します。マラケシュでアトランティック・ダイアローグに出た時の事です。私の出たパネルでは、アフリカ・中南米への日本の関与については、「中国の進出への対応」といったことでは全くなく、それぞれ歴史も長く、相手が望み、かつ、将来相手が自ら担うことのできる産業を育成するために、相手の努力に協力する、という精神でやっていることなどを説明しました。
 実は、その翌日に、「アフリカのグリーン革命(アフリカが世界の将来の食糧増産を可能とする鍵になる、との考え方)」についてのセッションがあった時の事です。パネリストの一人であるブラジルの財務大臣が、開口一番、日本の技術協力によりブラジルが今や世界一の大豆生産国になったこと、日本と共に、その成功体験をアフリカのモザンビークと共有しようとしていること、について、滔々と語ったのです。ちなみに、私は日本からの唯一の出席者でしたが、彼が私のためにそのような発言をされたはずがありません。やはり、日本が国として、長きにわたり地道に相手のために努力してきたことは、必ず相手に届いており、それは、日本が宣伝するよりも先に、恩恵を受けた相手から、より効果的に広報される、ということです。冷房の効いた室内でしたが、心が温まる思いがしました。

 

 

 前へ

記事一覧へ

次へ