NATO航海日誌

2018/10/25
 

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第2回 両舷前進原速

NATO事務総長特別代表
(女性、平和、安全保障担当)補佐官
川嶋 潤子

Welcome aboard!

「出港用意」を令してから、ひたすら周囲の状況と進む方向を確認しつつ、霧中航行のようなNATOの航海でしたが、着任後1年が過ぎ、視界も拡がって、ようやく自分の位置と針路を明確にして勤務出来るようになってきました。NATO日本政府代表部の防衛駐在官である石渡宏臣1等空佐のコラム「ひこうき雲の彼方へ~Beyond the Contrail~」にあるように、2018年7月1日にNATO日本政府代表部が開設され、更に日NATO協力が深化・具体化しつつある中で、NATO本部におけるこの配置の重要性をしっかりと心に留め、より意義のあるものとしていきたいと考えています。急がず着実に、「両舷前進原速!」

【VNC(Voluntary National Contribution)とは?】

よく聞かれる質問に、私の勤務上の立場は何なのですかというものがあります。今回はまず、そのご紹介から。
 私の配置は、各国の大使館等において勤務している防衛駐在官等や連絡官ではなく、NATOの「VNC(Voluntary National Contribution)」という立場です。VNCとは、NATO職員の身分を有し、純粋にNATOの業務を遂行しますが、派遣元国に人事面や管理面(給与も含まれます)における責任があるという派遣者です。派遣国において、本国との間の情報交換や調整に携わる「連絡官」の業務とは異なる勤務体系です。実際に、現在の私の任務は、NATOにおけるWPS(女性・平和・安全保障)推進であり、今でこそ「NATOのために」という考え方で業務を進められるようになりましたが、NATO加盟国ではない日本人でありながら、NATOのために働くという環境に慣れ、思考のバランスを取れるようになるまでやや時間がかかりました。
 NATOにはこうしたVNCが、加盟国からだけではなく、パートナー国からも派遣され、勤務しています。その数と配置の豊富さから、NATOがどれだけ多くの国家と様々な分野において協力関係を築いているか理解できます。

【NATO新庁舎への移転】

庁舎建設の遅れ等が心配されていましたが、2018年3月から3ヶ月かけて、約4,000人のNATO職員及び各国代表部が、1967年より使用されていた旧庁舎から、新庁舎に移転しました。敷地総面積は25万4千平方メートル、ガラスを多用した現代的な建築であり、形状は両手の指を組み合わせたデザインになっており、NATOの団結と協力を示すものです。太陽光の利用や地熱発電による冷暖房設備が完備され、省エネにも配慮しています。2018年9月にオープンとなったばかりの厚生施設「スタッフ・センター」には、レストラン、医務室などがあるほか、特に運動施設が充実しており、ジム、プール、テニスといった設備に加え、ヨガ、クロスフィット、空手などのクラスも設けられており、更に個人インストラクターも依頼できるなど、非常に充実しています。
 福利厚生については、現在のNATO事務次長ゴッテメラー氏が、女性職員や家族に対する支援の拡充を積極的に促進しており、託児所の設置やシングルファザー/マザーへのケアの充実、自宅勤務の検討等に反映させるための職員への聞き取りやネットアンケートが頻繁に実施されています。女性の社会進出の支援や職員の働き方改革が、世界共通の課題であり挑戦なのだと認識できます。

【NATO首脳会議(2018 Brussels Summit)】

【2018年7月11及び12日、ブリュッセルにてNATO首脳会議が開催されました。米国トランプ大統領の言動が注目を集めていたようですが、29か国の加盟国首脳に加え、我が国をはじめとするNATOのパートナー国からも代表が参加しており、厳重な警備が敷かれていました。NATO職員についても、サミットに関連のない者は出勤が制限されていました。
 サミット期間中には、サイドイベントとして、Atlantic Council、The German Marshall Fund、Women in International Securityといった機関・基金とNATOが提携したディベートや対話が催されました。ストルテンベルグ事務総長、スカパロッティNATO欧州連合軍最高司令官といったNATO高官のほか、加トルドー首相、アフガニスタン・イスラム共和国ガーニ大統領、ウクライナのポロシェンコ大統領といった政府高官も多数参加しており、安全保障に関する様々なテーマで交わされる各国の主張や熱い論議は、非常に興味深く勉強になりました。
 私の所属するWPSオフィスは、NATO変革連合軍(ACT)と共同でサイドイベントを実施。「Inclusive Security」というテーマで、WPS、文民保護、子供と武力紛争、文化財保護、紛争に関連する性的・ジェンダーに基づく暴力等に関するNATOの取組の紹介、NATO加盟国軍における女性の現状マッピング、シミュレーションを使用した教材の体験型の紹介を行いました。NATO内にも様々な意見がありますが、NATOが安 全保障というものを幅広く捉え、多くのテーマに取り組んでいることを示す機会となったと考えており、イベントの計画及び実行に参加できたことは貴重な経験となりました。

(写真:2018NATO首脳会議サイドイベントにて)

【練習艦隊の訪欧・NATO海上部隊との親善訓練】

2018年夏、海上自衛隊の練習艦隊が遠洋練習航海の寄港先として、欧州4ヶ国(スペイン、スウェーデン、フィンランド、イギリス)を訪問しました。その航程で、各国海軍との親善訓練に加え、NATO海上部隊と親善訓練を行ったことは、海洋安全保障における日NATO協力の具体的な推進のひとつであると考えますので、本コラムにおいても紹介したいと思います。
 ~練習艦隊と2018年遠洋練習航海~
 まず、海上自衛隊の練習艦隊及び遠洋航海について。海上自衛隊の遠洋航海は、幹部候補生学校を卒業した初級幹部の知識・技能の実地での修得、慣海性のかん養、幹部としての資質育成、国際感覚のかん養及び友好親善の増進を目的として、昭和32年以降毎年実施、今年度は62回目です。平成30年度遠洋航海部隊は、練習艦かしまと護衛艦まきなみにより編成。海上自衛隊は、2016年にも練習艦隊がNATO海上部隊と親善訓練を実施し、最近では2018年7月にアデン湾においてEUの海上部隊と共同訓練を実施するなど、欧州の各国及び機関とも協力しています。
 ~常設NATO海上部隊(SNMG:Standing NATO Maritime Group)~
 SNMGは、2005年に大西洋常設海軍部隊及び地中海常設海軍部隊から改称したNATO即応部隊に含まれます。NATOの軍事機構には2つの戦略コマンド(作戦連合軍及び変革連合軍)があり、SNMGは、作戦連合軍下の海上司令部(MARCOM)に所属する部隊のひとつです。第1常設NATO海上部隊は主に東大西洋を、第2常設NATO海上部隊は地中海を任務海域としています。
 ~親善訓練の概要~
 平成30年度練習艦隊は、スペイン沖でSNMG2のカナダ海軍艦艇HMCS Ville de Quebecと、バルト海においてSNMG1のデンマーク海軍艦艇HDMS Esbern Snareと親善訓練を実施しました。SNMG1との訓練では、艦艇及び航空機による訓練のほか、ラーセン司令官による泉練習艦隊司令官への表敬、NATO加盟国の若手士官の乗艦プログラムも実施されました。訓練実施後すぐに、NATO及びMARCOMのHPトップページに記事が掲載されるなど、NATOにおいても注目されていました。ラーセン司令官は事後、「日本と多くのNATO同盟国は地理的に離れているが、我々は海で繋がっている。泉司令官に表敬して海洋に関する意見交換が出来たことは光栄であり、互いの技量を高め理解を深化させるこうした訓練は活用すべきである。」と述べています。


(写真左:ストア海峡にて、写真右:SNMG1との親善訓練)



https://www.nato.int/cps/en/natohq/news_157770.htm?selectedLocale=en(NATOホームページ)
https://mc.nato.int/media-centre/news/2018/nato-maritime-group-sails-with-japanese-training-squadron.aspx(MARCOMホームページ)

若手士官乗艦プログラムの支援のため、私も彼らと一緒に「かしま」に乗艦しました。練習艦隊の実習幹部とNATO士官がとともに各種訓練に臨み、各国の安全保障環境について議論し、文化紹介などを通じて互いの理解と意識を高めあう様子を見て、まさに将来に続く貴重な機会であったことを認識しました。
 参加したNATO士官達からは「日本の艦艇に乗るのも、日本人と話すのも初めてであったが、そのホスピタリティに感動した。海洋安全保障という視点から日本及び東アジアとの連携を考える貴重な機会であった。」等の所感があり、こうした機会を通じて得られた個人的信頼関係は、各国海軍と海上自衛隊の関係深化に、そして日NATO協力の促進に繋がるものであると信じています。更に、私からNATO、WPS等について話す機会をいただく配慮を得たり、女性士官の懇談の場で各国海軍の女性を巡る現状や工夫を共有する機会を得るなど、私自身学ぶことの多い支援でした。かしま艦長の「出港用意!」に、身の引き締まる思いでした。

(写真:NATO及びWPS等に関する講話の様子)

 今回の訓練の実施の背後には、NATOやMARCOM、寄港各国大使館等の関係各所の支援があります。練習艦隊の支援の調整を通じて素晴らしい方々と知り合い、ともに日NATO協力の促進に尽力出来たことに、この場をお借りして心より感謝申し上げたいと思います。

今回は、2018年夏にあったNATOの主要な出来事と海洋安全保障における日NATO協力の深化について紹介しました。こうした貴重かつ興味深い出来事をこの航海日誌に書き溜めて、次回も皆さまにご紹介したいと思います。
 またのご乗艦をお待ちしております!

在ベルギー日本大使館
1等書記官兼1等海佐
川嶋 潤子

平成9年、獨協大学卒業、海上自衛隊入隊、幹部候補生学校入校。
練習艦隊司令部勤務、かしま・あすか等乗組、海上自衛隊幹部学校 指揮幕僚課程入校、ましゅう・あさぎり乗組、せとゆき艦長。
海上幕僚監部勤務、海上自衛隊幹部学校勤務の後、現職。

 
 

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