日本と私
【9月8日~19日に開催されている「シャイン・ウィークス」にあわせて、ベルギーで活躍されている日本人女性のお一人、フードジャーナリストの宮崎真紀氏から、「シャイン・ウィークス」への応援を込めた寄稿をいただきました。】
ベルギーと私
宮崎真紀
2014年9月
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ベルギーに住むようになって気がついたことは、カフェでお茶やコーヒーを頼むと、必ず小さなビスケットやチョコレートが添えられていることだ。カフェのみでなく、例えば美容院などでも同様で、お隣のフランスやオランダにはない、チョッと嬉しくなるサービスだ。こんなところにも、美味しいものが好きなグルメの国ベルギーが垣間みられる。
ベルギーでの私の美食探検は、国立料理学校での日本人のためのフランス料理教室を主催したことから始まり、それはボランティアで20年間も続いた。料理上手の主婦が多いベルギーなので(男性も)、彼らに教わってもよかったが、プロの世界が知りたかった私は国立学校に掛け合いに行った。素人しかもフランス語が出来ない日本人達に「料理のレッスン」をという突拍子もない申し出。最初はおおいに驚かれたものだ。何回か足を運ぶうちに、幸いにも校長が日本との「親善」として例外的に許可してくれ、学校でもピカイチの先生(シェフとパティシエ)をつけてくれることになった。それではと友人に声をかけるとたちまち30人集まった。
さて、先生との初回打ち合わせで渡されたのが、材料と簡単な料理方法が書いてある手書きのレシピだ。まず字が判読できないうえ、どこで塩やコショウを入れるかも、使う油の量も明記してない。これには参った。当校の生徒は中学卒業後、見習いとしてレストランで働きながら、週何日か学校に来るので、要領だけを書けば分かるのだろうが、なんといっても我々はシロウトの主婦だ。さらに、フォンド・ヴォーって?ミモザ風の卵って一体何だ・・・と、たくさんの「?」が目の前をちらつく。それ以降は、レシピをもらうとまず家で事前に作ってみて、分からないところは聞くという知恵がついた。
通訳は私だが、最初は器具や調理法などの専門用語に四苦八苦したうえ、丸4時間立ちっぱなしでしゃべり続けるので、授業後は喉がカラカラになる。ランチは、ホテル学校の生徒たちのサービスで、フルコース料理とワインという星つきレストランが堪能できた。私といえば、水なみにワインで喉を潤すせいで、毎回ほろよい気分での帰宅となる。こうして始まった月2回のレッスン以外にも、ワイン・テイスティングやフランス料理の歴史の講座、チョコレート作りの実践、農場見学など、普通の料理教室では体験できないことができたのも、懐が深いベルギー人のおかげだ。
そんなこんなで、プロのシェフや野菜生産者、家畜飼育農家などの知人が増え、料理関係のコーディネートや執筆、翻訳が来ても、ある程度は大丈夫となる。以前はファッションやアート関係のイベントもこなしたが、もともと食いしん坊なので、やはり食関係には力が入る。
この数年来温めてきた企画は、ベルギー人に「和菓子とお茶」を知ってもらうことだ。30年前は生の魚を食べる奇異な人種に見られたが、世界的な健康志向の現在、サシミ、のり巻がスーパーの棚を賑わせている。パティスリーも抹茶や柚子がトレンディーな今、ヨーロッパ人に馴染みがない「あんこ」や「きな粉」の小豆製品、日本人の手先の器用さや四季折々の美的感覚を紹介する時期が来たと思う。ベルギーの雑誌に投稿したり、ラジオで和文化を紹介したりすると、日本に関心をもつ人がいかに多いかに嬉しくなる。ベルギーを飯の種にしているうえ、ここは第二の故郷だが、車や電気製品など選択技があれば絶対日本製を買う、心はいつまでも日本人の私である。
宮崎真紀
グルメ情報誌「ボナペティ」をベネルックス三国で発信していたが、現在は「ボナペティ・オンライン」をネット発信している。その他、フードジャーナリストとして、国内外の雑誌に連載を持つ。ベルギーボビンレース教室を主催、ベルギー文化の紹介にも力を入れる。
- ボナペティオンラインのホームページ
http://www.bonappetitonline.org/- ベルギーあれこれ(マネケンのホームページで、普段のベルギーを紹介)
http://www.bonappetitonline.org/- ベルギーの街角から(ベルギー郷土菓子(日本洋菓子協会連合会の「トピックス」でベルギーを紹介)
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