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第二十二回 「趣味」と「実益」その2

2015年9月30日

 前回は、ベルギー・ビール・ウイークエンドについて紹介しましたが、今回は、もう一つの「趣味」と「実益」を兼ねたイベントについてお話ししたいと思います。

ベルギーで野球?

lfb_022_baseball1 去る9月5日、アントワープの近くのブラスカートという町で、新たに野球場がオープンする記念の式典にお呼び頂き、合わせて、始球式をする、という光栄に浴しました。私の前任の坂場大使も始球式をやられ、ベルギーと野球について「よもやま話」に書いておられます(2013年4月2日)。

 そこでも書かれているように、ベルギーと野球・・・と聞くと、余りピンとこないかもしれませんが、実は、欧州野球連盟が創設されたのは1953年4月に遡りますが、ベルギーは、創立メンバー5ケ国の一つです。そして、翌1954年には、ベルギーが最初の欧州選手権を主催し(優勝はイタリア)、1967年には優勝したこともあるのです。
 現在、欧州野球連盟加盟国は38ケ国。今年7月時点のランキングでは、ベルギーは、欧州内で10位、世界では35位になっています。ちなみに、欧州の中では、オランダが1位で世界でも5位の強豪。それに続くのがイタリアで世界11位です。なお、2014年末時点で、世界1位は日本、米国、キューバがそれに続きます(注)
 (注)IBAF World Rankings による。

ブラスカート・ブレーブス

lfb_022_baseball2 ベルギー国内の野球人口は、大体3000人弱。現在、各都市を拠点とするアマチュア・チームが37チームあり、3部制で、毎年リーグ戦を行っています。その内、1部は、昨年時点では7チーム。坂場大使が2年半前によもやま話に書かれた時点から、1チーム減っていましたが、今年2015年には、1チームが2部に降格する代わりに、2チームが2部から昇格し、元の8チーム制に戻っています。これらのチームが総当たりのリーグ戦を経た後、トップ2チームが5ゲーム(3ゲーム先取)の優勝決定戦を行います。

 私が始球式に呼んで頂いたブラスカートを拠点とする「ブラスカート・ブレーブス」は、昨年は1部リーグで堂々の2位。昨年のリーグ戦のトップは、同じくアントワープ市の近くのボルヘルハウトにあるスクイラル(リス)でした。ブレーブスは2ゲーム差の2位でリーグ戦を終え、優勝決定戦も最終戦の第5戦までもつれ込みましたが、残念ながら1-8で力尽きました。今年のシーズンもそろそろ終わりですが、結果はどうでしょうか。
 なお、アントワープ周辺に強いチームが多いのは、もともと、港町であり、かつ、第二次世界大戦後に、米軍関係者が、欧州への物資輸送の拠点の一つとなっていたアントワープで野球をやり始め、これがベルギーに広がったためだと言うことです。

「実益」

lfb_022_baseball3 この始球式には、私以外にも、在ベルギーのバウワー米国大使が呼ばれ、素晴らしいスピーチをされましたが、来賓の中心は、ブラスカートの地方に縁のある名士の方々です。その中に、ヤンボン連邦内務大臣もいらっしゃいました。ヤンボン大臣は、元々は、アントワープより南東に位置するゲンク市の出身ですが、現在ブラスカートに居を構えておられます。前回ベルギー・ビール・ウイークエンドでお会いしたバンデプット連邦国防大臣と同様に、今の与党かつ最大政党であるN―VA(新フランドル同盟。フランドル地域の独立を綱領に掲げています。)出身の実力者です。
 実は、式典の出席者にヤンボン大臣の名前があるのを知ってはいたものの、現在の治安状況や難民問題の深刻化を考えると、週末とは言え、おそらく実際は出席されないだろうと思っていましたので、お顔を拝見したのは、嬉しい驚きでした。そして、私は、第一ゲームが雨で中断になった後、失礼したのですが、その時点でもまだ、その場に留まっておられたのです。この機会に、今のベルギーや欧州の治安を巡る状況についてのみならず、野球の楽しさや、ベルギーでのアマチュア・スポーツの在り方などについて、ゆっくりお話しできたのは、望外の喜びでした。

「地域」に根差したスポーツ

 ご多聞に漏れず、スポーツにはお金がかかります。アマチュア・スポーツでその資金をどう調達するかは、万国共通の課題でしょう。ヤンボン大臣によると、今回のブラスカートの野球場新設は、大まかに言って1/3は地方政府の支援、1/3は民間企業の協賛、残り1/3は地元の協力で可能になったとのことです。実はプラスカートには、先日日本チームも参加したホッケー世界選手権の舞台となった素晴らしいホッケー場もあります。そのホッケー場に隣接する古い球場をホッケー・クラブに譲り渡し、更に資金を調達したそうです。
 新設のお祝いには、野球場の過去のマネージャーや、チーム支援に尽力してこられた、色々な方が参加しておられ、「俺がチーム」について、自分の事のように熱っぽく語っておられました。これが、ベルギーのスポーツの力の源泉なのだと思います。

 ちなみに、私の始球式は、一応ベースまでは届きましたが、ストライク・ゾーンを右上に大きく外れてしまいました・・・

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