大使のよもやま話

トップ > 大使のよもやま話

<< 前へ 記事一覧へ 次へ >>

第32回 世界大学ランキングの上位にベルギーの5大学

2013年10月11日

    ベルギーの高等教育機関(大学)のレベルが高いことは大陸欧州では良く知られていますが、先日、「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が発表した世界大学ランキング(2013-14)を見て納得しました。この英国機関が発表するランキングはアングロサクソン系の大学がやや高く評価され過ぎているとの見方があるようで、事実、トップ200の大学のうち、米国と英国の大学だけで108大学を占めています。日本の大学では、東京大学と京都大学が100位以内、東京工業大学、大阪大学及び東北大学を加えても200位以内にはわずかに5大学がランクインしているに過ぎません。では、ベルギーはどうかというと、ルーヴァン・カトリック大学(KUL)とゲント大学が100位以内に入り、アントワープ大学、ルーヴァン・カトリック大学(UCL)及びブリュッセル自由大学(ULB)が200位以内に入り、日本と同じ5大学がランクインされています。ベルギーの人口が日本の11分の1に過ぎないことから見れば、これは驚くべきことです。特に、61位のルーヴァン・カトリック大学(KUL)は京都大学(52位)とほぼ同レベルであり、フランスの名門高等教育機関であるENA(国立行政学院)(65位)より上位にあります。まあ、何を根拠にランキングを付けるかは議論があるところでしょうが、総じてベルギーの大学のレベルが世界的に見てもかなり上位にあることは確かなようです。

<注目されるアントワープ市長の動向>

    今月の初め、アントワープのバート・デ=ウェーフェル市長が外交団を招いて昼食会を開催しました。私も他用の合間をぬってこれに参加し、市長と短時間ながら言葉を交わす機会を得ました。デ=ウェーフェル市長は、連邦議会の最大勢力である「新フランドル同盟(N-VA)」の党首であり、フランドル地方(オランダ語圏)の一層の自律(分離)と王室の権限縮小を主張し、近年大きく勢力を伸ばしていることから、ベルギーでは「時の人」であり、来年5月の総選挙を前にその動向が注目されています。私から市長に対して過去の訪日経験を伺うと、「未だ一度も日本を訪問したことはない」との返事でした。来年秋にアジアの数か国・都市を訪問する予定があるとのことでしたので、その折には是非日本も訪問するよう申し上げました。デ・ウェーフェル市長はかつては100kg以上も体重がある「巨漢」だったようですが、昨年の選挙を前に大いにダイエットをして大変スマートな政治家に変貌しました。外交団や地元経済界の代表を前にしたスピーチは流暢な英語で行われ、その後の各参加者との懇談も英語で行われました。総じて、フランドル地方の人は政治家に限らず皆さん英語がお上手なのですが、それにしてもデ・ウェーフェル市長の英語力には驚かされました。

<ベルギー所在する日本の2大企業:ダイキンとトヨタ自動車>

yomoyama_032_daikin    先週、ベルギーの最西端にあるオステンドの町(ブリュッセルの西120km)で、ダイキン・ヨーロッパ社(「よもやま話」第4号ご参照)の創立40周年を祝う一大式典が行われました。空調・冷凍機分野で世界最大手となった「ダイキン工業」は世界に80以上の工場・営業拠点を有するようですが、その第1号の海外工場がこのオステンド工場なのです。1924年に「大阪金属工業所」という小さな町工場として操業を開始した「ダイキン工業」は今や総従業員数51400人(今年3月現在)の世界的企業に成長しており、事実、これら従業員の77%が海外の従業員だそうです。私は、祝賀イベントでの挨拶で、ダイキン・ヨーロッパ社が日本企業によるベルギー投資のパイオニアであり、40年を経た今日も更なる成長が期待されていると申し上げ、同時にベルギー政府によるビジネス環境の改善に向けた更なる支援をお願いしました。この日の式典にはダイキン本社から井上礼之会長をはじめとする幹部多数がかけつけ、ベルギー側からも連邦政府のバンデ=ラノッテ経済大臣(副首相)や地元西フランドル州のデカルウェ州知事らが出席されました。夕刻から始まった式典が終わったのは深夜近くで、歌あり踊りあり、またクラシック音楽の演奏もありという誠に盛大なイベントでした。
yomoyama_032_tpce1yomoyama_032_tpce2    この前日、ディースト市(ブルッセルの北東60km;人口23000人)にあるトヨタ・モーター・ヨーロッパ社(総従業員数2400人)の部品配送センターを訪問しました。トヨタ自動車はベルギー国内に製造工場こそないものの、ブリュッセル市内に欧州の拠点となるトヨタ・モーター・ヨーロッパ本社を構えており、ザベンテムに研究開発センター、ゼーブリュージュにロジスティックス・センターを有しています。部品配送センター(従業員880人)ではルロワ社長らから全般的な事業概要の説明を受けた後に、3棟が連結した巨大な配送施設に足を運び、オペレーションの現場を案内いただきました。取り扱っている部品の総数は27万点近くに及んでいるそうで、梱包された全ての部品及びこれを運ぶトレーにバーコードが付いており、従業員が部品を出し入れする度に読み取り機をかざして読み取り、部品の流れをコンピューター管理している様子が確認出来ました。社内での「カイゼン運動」も徹底しており、毎月の改善提案とその実施状況がボード上に表示されています。我が大使館でもこうした運動を取り入れないといけませんね。

<日本大使はFEVIAセミナーの講師>

yomoyama_032_fevia    先週、ブリュッセルの郊外のエッセヌ地区にある研修施設で、FEVIAフランドル支部の食品輸出セミナーが開催され、講師の一人(?)として参加しました。FEVIAとは「食品産業連盟」で、この日のセミナーでは、50人ほどの食品業者を集め、日本に食品を輸出するノウハウを学習しておりました。私は食品輸出の専門家ではありませんので、むしろ日本の消費者の立場から外国製品に対する注文事項を指摘しました。日本人は品質や包装、安全性などにうるさいこと、ヨーロッパ製品に対しては高級品のイメージを持っているので高価格でも品質の良いものを輸出すべきこと、などを申し上げました。ベルギーから日本に輸出されている食品はチョコレート、ビール、じゃがいも(冷凍)、麦芽(モルト)、脱脂粉乳などで、昨年の農水産物の輸出総額は201億円(対日輸出全体の9%)ほどです。外国では、「日本の食品市場は外国製品に対して閉鎖的」というステレオ・タイプのイメージが今なお存在するのですが、日本で成功している外国の食品企業は多く、予め十分に市場調査をして根気強く参入努力をすれば、成功の可能性は高いと思います。事実、ベルギーからの脱脂粉乳の輸入は2011年に再開されて、既に年間8億円近い取引になっています。努力する者のみが報われる世界ですね。

<アントワープの世界体操選手権>

yomoyama_032_gymnastics    先週、アントワープ市で体操の世界選手権が開催され、男子の個人総合で内村航平選手が金メダル、加藤凌平選手が銀メダルに輝きました。男子の種目別決勝でも、床運動で白井健三選手が、あん馬で亀山耕平選手が,そして平行棒で再び内村選手がそれぞれ金メダルを獲得しました。私は、主催者からの招待を受けて、大会5日目の競技(女子個人総合)を見ることが出来ました。会場のアントワープ・スポーツアリーナは超満員の観客で溢れ、各選手の演技に盛大な拍手と声援が送られておりました。体操競技はテレビで観戦することは多かったのですが、会場に足を運ぶと選手の緊張と観客の熱狂が直に伝わってきて、興奮しました。日本の女子選手2人が予選を勝ち抜いて本選に出場し、そのうちの一人である寺本明日香選手(17歳)が昨年のロンドン大会を上回る9位に入りました。この大会を4連覇した男子の内村選手は誠に立派ですが、会場で本選出場の24選手が真剣に技を競っている様子を見ていると、女子の寺本選手のように上位に入ることですら本当に大変なことだということが実感されました。

<リシュリュー文学賞を受賞した日本人>

yomoyama_032_prixrichelieu    先日の週末、ブリュッセル市内にあるフランス会館において、今年度の「リシュリュー文学賞」の授賞式があり、日本人の水林章氏が受賞された関係で、この式典に出席しました。私は「リシュリュー文学賞」というものを知らなかったのですが、それもその筈で、カナダのケベック州(フランス語圏)に本部があるリシュリュー・クラブという国際組織が4年前に創設したばかりの新しいフランス文学賞なのです。フランス語を母国語としない著者によるフランス語の作品が表彰の対象になっているようです。水林氏はフランス文学・思想を専門にする上智大学の教授。今回の受賞作は「他者から見た言語」という著作で、著者のフランス語人生を綴った自伝的な作品です。授賞式にはベルギー王室の関係者やレンデルス外務大臣(副首相)の他、多くの文学愛好者が出席し、その中で、水林氏が大変流暢なフランス語で受賞スピーチをされました。私は、水林氏とは初対面でしたが、意外な共通点を発見しました。それは、全く同じ時期(1974~76年)に、南フランスのモンペリエ大学で共にフランス語を勉強していたという事実です。当時、この大学に在籍していた日本人学生は数人だった筈なのにお互いに学内で出合うことはありませんでした。その二人が40年近い歳月を経てブリュッセルで出会うとは、全く不思議な御縁ですね・・・。

<< 前へ 記事一覧へ 次へ >>