ラブレター・フロム・ブラッセルズ

平成27年10月13日

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第二十三回 ちょっと何か違う?

 同じ土地の駐在が1年を越えると、最初は、「ちょっと何か違うな。」と思っていたものが、だんだんと当然のように思えて来るから不思議です。でも、やはり、最初の新鮮な気持ちをできるだけ忘れないようにすることも大事だと思っています。ということで、今回は、ベルギーと日本の「ちょっと何か違う」をいくつか紹介して見ましょう

右側通行優先

 まずは、ベルギーでの車の右側通行優先。これは、未だにしばしば違和感を覚えます。他の欧州大陸諸国と同様に、ベルギーでも車は右側通行ですが、ベルギーで他の国と少し違うのは、交差点に同時に車が入る場合には、原則、右側の車が優先通行できるということです。これは、右側から来る車が直進であろうが、右折・左折であろうが、同じです。例外は、道路にどちらが優先するかが書いてある場合。交差点入り口に白い三角マークの列が書いてある場合には、そこから交差点に入る車は、他の道からの車を優先しなければなりません。
 これには、慣れるまで、結構苦労します。直進で交差点に入る場合には、常に右側から来る車に注意しないと、向こうは、スピードを緩めないで突っ込んできます。それから、朝のラッシュ時などは、幹線道路に、右側からの車が右折でどんどん入って来て、直進の車がなかなか前に進めない、といった実害も生じます。まあ、そういう時には、ベルギー的に、何となく譲り合いながら、それぞれが前に進む、ということになるのですが。

 というのも、私のベルギーの人達についての印象は、非常に親切で、異なるものに対して寛容で、対立よりは妥協を好む、というところで、これは、ベルギーに駐在する外交官仲間でも、ある程度共通した認識です。同時に、これまた共通しているのは、そのベルギー人が、ハンドルを握った途端に人が変わったように「攻撃的」になる、ということです。渋滞の時は、止せば良いのに、我先に交差点に突っ込み、結果、信号が変わっても、反対側の車線は邪魔されて動かず、それに腹を立てた反対側が同じことをやり、結局、どちらも、時間を無駄にする、という光景を良く見かけます。

横断歩道

一方、私の強い印象は、こと、横断歩道になったら、ベルギーの人達は歩行者に寛容だということです。信号のない横断歩道で歩行者が通行を待っている場合には、殆どの場合、車は直ぐに止まります。その車に対して手を振ったり、親指を立てたりして、お礼をしながら道を渡る。これは、歩行者が高齢者であろうが、若者であろうが、余り変わりません。
 実は、このことを非常に強く感じたのは、日本に一時帰国した時の事です。昔の記憶では、日本でも、信号のない横断歩道で待っていれば、直ぐに車は止まり、歩行ができるはずでした。ところが、さにあらず。私が渡ったいくつかの交差点が特別だったのかもしれませんが、何台もの車がスピードを全く緩めることなく横断歩道を通り過ぎ、結局、車が来なくなるまで横断を待つことになりました。ちょっと、悲しい気持ちになる一方で、ベルギーの良さを一つ再認識した次第です。

ノー・カー・デイ

 歩行者と言えば、もう一つ。ブリュッセルでは、年に一回9月の第三日曜日に、「ノー・カー・デイ」というものがあります。要は、その日は、朝の9時から夜の7時まで、ブリュッセル市内では、仕事上不可欠な例外を除いて、車の運転が禁止されるのです。これは、ブリュッセルのような大都市にとっては、相当大変なことです。その日は、前日から、ブリュッセルに入る高速道路の入り口を封鎖する準備が始まり、市内でも、夜には、環状道路のトンネルが通行禁止になります。
 今年も、9月20日がその日に当たり、私は、たまたま、朝早く車通行禁止エリア外にある空港にお客様をお送りする必要があって外出したのですが、帰り道、なかなかブリュッセル市内に入れないで、苦労しました。一応ルール上は、外交官ナンバーの車は、仕事であれば運転可能なことになっているのですが、市内に入るチェックポイントにいる警官の人達の全てがそれを知っているとは限りません。
 でも、警官に色々説明している傍らを、自転車に乗った家族連れや、スケートボードに乗った若者達が、気持ちよさそうにスイスイと通り過ぎていく様を見て、心が和みました。東京でも「歩行者天国」がありますが、市の中心部全体となると、無理でしょうね。

「15分ルール」

 最後にもう一つだけ、「15分ルール」について。「15分ルール」という決まった表現があるわけではなく、これは、私の造語です。要は、ベルギーでは、色々なものの開始が殆ど必ずと言っていいほど遅れるのですが、同時に、15分経つと、大体始まる、ということです。これは、若干コントロールの難しい各種イベントならまだしも、ボザールのような大きな劇場での演奏会や、バレーの公演でもそうなので、驚きます。こんなことは、日本ではあまり見たことがありません。ただ、最初は戸惑いましたが、慣れてしまうと、どうせ、15分過ぎれば始まるので、余り気にはならなくなります。

 一方、どなたかのお宅に食事でご招待される場合には、できる限り開始時間の前には伺わず、意識的に10分程度遅れて行く、というのが、あらかたのルールと言っても良いでしょう。ホストの方々は、直前まで準備で大変でしょうから、少し遅れ目に伺った方が親切だ、という考え方です。自分がホストとして公邸にお客様をお迎えする時にも、正直、その方が有難いと思うこともあります。ベルギーの方々は、この場合にも、大体15分程度の遅れでおいでになるので、助かります。そして、面白いのは、15分を越えて遅れた時には、本当に申し訳なさそうに謝られるのです。これが、ベルギーの方々の「体内時計」なのだと思います。

 

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