大使のよもやま話

平成26年7月11日

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第1回 ベルギー着任

 新しい日本大使の林 肇(はやし はじめ)です。以前から、在ベルギー日本大使館のHPでは、大使がメッセージを直接発信するコラムが掲載されており、私も前例に倣って、ベルギーで体験したことや考えたことを中心に、「ベルギーの街角から: 日本大使からの一言」という題名で、時折コラムを書かせていただきたいと思います。私の先輩方の中には、大変に筆まめな方もいらっしゃいましたが、私は、こうした方々と同じペースで書くことは出来ないかもしれませんし、また、既に書かれたものと重複する題材を取り上げることもあろうかと思いますが、ベルギーのことや、日本とベルギーの関係、あるいはベルギーでの日本大使の活動にご関心のある方々の目に止まることがあれば、誠に幸いに思います。

 今回は、第1回目ということで、ベルギー着任から信任状の捧呈までを書きたいと思います。

 私は、4月27日の午前、ゴールデンウィークの開始が目前に迫り何となく慌ただしい雰囲気を醸し出す成田空港を後にして、2015年10月に就航した全日空の成田・ブリュッセル直行便にて、ベルギーにやって参りました。
 日本とベルギーとの間には、かつて、恐らく2000年代初めまでだったように思いますが、サベナ・ベルギー航空による直行便が就航していましたが、この便がなくなった後、ずっと直行便がないままでした。私自身、これまで仕事上の必要から、ブリュッセルには何度も足を運んで来ましたが、パリかフランクフルトか、あるいはアムステルダム、コペンハーゲン、ヘルシンキのいずれかで、航空機を乗り換えてやって来た記憶があります。その意味で、直行便が利用出来るのは、とても便利です。
 それだけではありません。外国に駐在して、その地で生活し勤務する方々に共通する思いとして、何かあった時に、すぐに飛び乗って母国に真っ直ぐに戻れるフライトが存在することは、とても安心感を与えてくれるものです。仕事上の緊急な必要、自分や生活を共にする家族の事故や病気、母国に残る家族の緊急事態など、もちろん、こういったことなどないにこしたことはありませんが、逆にいつ起きても不思議ではありません。私自身も、年老いた母親を日本に残しての赴任です。その意味で、今回、自分が赴任する任地との間に直行便があることを大変心強く思いながら、やって参りました。

 大使は、任務先の国に着任しても、すぐに大使としての仕事ができるわけではありません。任務先の国(接受国と呼ばれます)から、大使として受け入れられて初めて、大使としての正式な仕事が始められます。自分の国(派遣国と呼ばれます)から持参した大使としての信任状を国の代表者にお渡しする信任状捧呈式がそのような機会に当たります。
 ただし、信任状捧呈式が済むまでは何も出来ないのかと言うと、そうでもありません。これは国ごとに違いがありますが、ベルギーにおいては、信任状の写しを外務省の儀典長に渡した後であれば、一定の制約の下で限られた活動をすることは認められています。原則を守りつつ、同時に柔軟に対応するという、ベルギーらしいやり方だと受け止めました。そして、幸運なことに、私は、着任した翌日の4月28日の朝という大変早いタイミングで、ベルギー外務省のギュスタン儀典長とお会いし、信任状の写しをお渡しすることが出来ました。

 間もなく、フィリップ国王陛下への信任状の捧呈が5月16日の昼過ぎに行われることが決まりました。大使によっては、着任しても信任状の捧呈まで何ヶ月も待たされる方もあると聞きましたので、これまた大変に幸運だと受け止めました。
 幸運なのは、5月16日の天気にも当てはまりました。ブリュッセルの天気は、雨の降る日が多いのと、一日の中でも変わり易いので有名ですが、この日は、5月中旬という一年で最も美しい時期であるばかりでなく、とても気持ちの良い晴天に恵まれました。
 当日は、大使の住まいまでベルギー王宮から使者の方が来訪し、王宮から提供された車に白バイの護衛付きで、ブリュッセル公園を挟んだ王宮の向かい側の国会議事堂の前まで行きます。そこから騎馬隊の護衛を受けながら、ブリュッセル公園の周りを半周して王宮に向かいました。日本においては、天皇陛下に信任状を捧呈する外国の大使が、東京駅の丸の内中央口から皇居まで、宮内庁の馬車に乗って移動するのを、沿道の方々が写真を撮る光景を目にすることがあります。乗り物こそ違いますが、ここベルギーでも同じように注目すべき光景だと受け止められたのでしょうか、ブリュッセル公園に来ていた観光客や、公園で昼休みを楽しんでいた市民の方々が盛んに写真を撮っていました。ちなみに、車の中から数えていたのですが、騎馬隊は合計42頭もの数でした。
 王宮では、大使館の3名の館員と共にフィリップ国王陛下にお目どおりし、信任状をお渡ししました。その後、国王陛下のお招きで、別室にて二人でお話をさせていただく機会がありました。昨年10月の国王・王妃両陛下の国賓としての訪日の際に日本側担当者の一人としてお目にかかっていますが、こうして直接お話をさせていただくのは初めてのことです。私からは、天皇陛下からのお言葉をお伝えさせていただきました。

 こうして在ベルギー大使としての仕事を正式にスタートさせることが出来ました。ベルギー各界の方々、在留邦人の方々、NATOの関係者、在ベルギーの外交団への着任挨拶を進めています。また、ブリュッセルに限らずベルギーの各地への訪問を始めました。今後の仕事や出会いの中で体験したことや感じたことは、第2回目以降に順次書かせていただきたいと思います。

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