第九回 「おもてなし」の心
2015年2月16日
今回は、少し「柔らかな」話、言うなれば、「ソフトパワー」の話をしたいと思います。
突然ですが、私の重要な仕事の一つは、お客様を公邸にお呼びして、接待することです。日本大使の公邸は、日本を代表する「おもてなし(エンターテインメント)の館」でなければならないと、常に肝に銘じています。
おいで頂いた方々には、まずは、ベルギーに居ながらにして「日本」を感じて頂くことができればと思っています。季節を感じさせる一品は重要です。今であれば、少し早いですが、雛人形。また、洋花ですので限界はありますが、できるだけ季節に合った雰囲気の活け花を生けて、応接間や食卓に飾ることも欠かせません。ちなみに、当地では、これは、私の家内の仕事になっています。
それに、日本の「匠の技」を感じさせるような品々を、小道具としてさりげなく飾っておく、という手もありますね。私は、一つは、北陸で昔から鋳物の産地として有名な地に所在する会社の製品を使わせて頂いています。金属である錫で出来た平らなものなのですが、簡単に思うままに形を変えられ、時には、篭のような形にしてパンや果物の容器、また、時には、ワインを飾るケースにもなる優れものです。おいでになったお客様には、まず入り口でゲストブックに署名して頂くのですが、その横にこれを置いておき、それとなく形を変えてみせる。これでお客様は「うぉ~」ということになります。この一品は、ベルギーに居ながらにしてHPで見られますし、今や、欧州のいくつかの都市で買うことも出来ます(ご関心のある向きは、大使館のインフォのメールまでお問い合わせ下さい。)。
もちろん、お客様をお招きする最大の目的は、楽しい会話をし、親しくなり、仕事をスムーズに進めるための人間関係を築くことであり、更に、その過程で、日本にとって有用な色々な情報を頂く、先方にとっては逆もまたしかり、ということです。そのために、やはり重要なのは、美味しい食事を差し上げることでしょう。日本大使の公邸に行くと、美味しい料理が食べられる、という評判が立てば、それだけでも大きな力になります。
当地の公邸では、フランス料理を専門とする日本人の料理人の方に料理を出してもらっています。美味しいフランス料理のレストランが沢山あることで有名なブリュッセルの地では、やはり、フランス料理的な味付けが出来ることが必要です。同時に、フランス料理でも、材料や味付けに少し日本的なアクセントを加えるように工夫してもらっています。また、お客様に応じて、時には、日本料理的なコースに、当地の材料を使う、という場合もあります。やはり、お客様に「自分のことを考えて準備してくれている。」と感じて頂けることが出来れば、一番良いと思います。
さて、食事と言えば、お酒です。もちろん、フランス料理と言えばワインと言うことになりますし、食事に合う色々なワインが発達してきた歴史には、なかなか対抗できません。しかし、最近は、当地でも、日本料理への関心が定着するのと呼応して、日本酒に対する関心がだんだんと高まってきています。日本で買うのに比べて相当高価ですが、いくつかの日本酒を当地で買うことも出来ます。
そして、当地の公邸では、フランス料理であっても、出来るだけ日本酒をお出しするようにしています。ちなみに、日本産品売り込みのために、日本酒は、日本の蔵元さんから直接、日本国内の取引価格で取り寄せさせてもらっています。
ところで、一言で日本酒と言っても、今や、色々な種類があります。
- 食事の最初には、まずは日本酒の発泡酒。ベルギーの方々はシャンペンがお好きですが、日本酒にも立派な発泡酒があることは余りご存じありません。当地では、特に、大震災の被災地である東北地方の少し濁った発泡酒をお出しするようにしています。このお酒は、日本でFIレースが行われる際の優勝祝賀式でシャンペンに替わって使われることもあるお酒です。
- 次は、食中酒。日本料理は言うまでも無く、日本的なアクセントのあるフランス料理にも、日本酒は良く合います。もちろん、吟醸酒も素晴らしいのですが、時には、本醸造のお酒が、すっきりした味で料理の邪魔にならず、お勧めの場合もあります。当地では、私の出身県である広島で、最近良くコンクールで受賞をしている銘柄の本醸造と純米酒を交代で、また、時には飲み比べの形で、お出ししています。
- そして、最後に、デザートには、貴醸酒を。普通のお酒は、水から造るのですが、貴醸酒は、酒を醸造したもので、シェリーのような深い色とほんのり甘い香りがします。これをアイスクリームなどと一緒にお出しすると、非常に好評です。当地では、これも広島県産で、コンクールで受賞をしている銘柄を使わせてもらっています。
日本酒にとどまらず、他の日本の産品を売り込むことも、私たちの重要な仕事の一つです。最後に一つ申し上げると、JETROなどのご努力も有り、当地でも、本当の日本産和牛が市場に出回るようになりました。大事なお客様に時々この和牛をお出しすると、本当に喜んで頂けますし、次には、「どこで買えるのか。」という話になります。世界各地で、このような努力を積み重ねていくことが、日本産品振興につながればと思います。ベルギーの方々、是非、日本酒や、日本産品を楽しんで下さい!
|