第十回 「続おもてなし」:「日本酒」の世界(その1)
2015年2月25日
前回のLFBで、公邸での日本酒による「おもてなし」についてお話ししたところ、少し反響があったので、今回と次回は、日本酒特集で行きたいと思います。
日本酒は、面倒なことを言わなくても楽しめますが、いくつか参考になりそうなミニ知識(トリビア)を以下簡単に申し上げます。
日本酒は、米から作られる醸造酒で、作り方の基本は、ワインと同じです。日本酒はアルコール度数が非常に高いという誤解を時々聞きますが、それは違います。日本酒のアルコール度数は平均して15度~16度で、ワインの12度~13度よりは少し高めですが、最近は、ワイン、特に赤ワインは15度程度のものも多く出回っており、結論から言うと、殆どワインと同じと考えて頂いて良いと思います。
次に、材料などについてご説明しましょう。美味しい日本酒を作るために重要なのは、水、米、酵母、そして、造り手(杜氏)の4つの要素だと言われています。
日本酒の原料となる米(酒米)は、普通の食用のお米とは少し違います。まず、削っても割れないように、普通のお米よりは、少し粒が大きめです。また、どんな米にも芯の部分には、白くて不透明な部分があり、その部分は、粘りけが多く、タンパク質が少なく、酒を造る過程で溶けやすい性質を持っているのですが、酒米は、この部分も大きいのです。
酒米として最近一番名前が知られているのは、山田錦でしょう。酒米の中でも最大の生産量です。この米から作られる日本酒は、一般的に香りが良く、大吟醸酒などに使われることも多いようです。一方、東北地方を中心に五百万石や美山錦という酒米も有名です。これらの酒米からは、口当たりがすっきりとして滑らかな日本酒ができます。また、山形県の特産で出羽燦々という酒米は、吟醸酒などにも使われ、キレの良い味わいです。もう一つ挙げるとすれば、雄町でしょう。これは、一番歴史の長い酒米で、一時は絶滅の危機にあったのですが、最近、復活しました。味わいは、他の酒米に比べ、コクがあり香りが高いものに仕上がるようです。
次は酵母です。ビールやワインの場合と同様に、これが、酒の香り決定的に左右する重要な要因です。その昔は、酒は、自然界に存在する酵母を、経験に基づきながらも、偶然に取り込んで造られていたのでしょう。古くから存在する蔵元では、「蔵つき酵母」といって、蔵の壁や空気中に存在する酵母を大事にして、酒を造ってきました。ということは、どこで造るのか、が重要で、場所を変えると同じ味わいを造り出せない、ということだったのです。化学が発展するにつれて、この状況は飛躍的に変わりました。今や、一定の味わいを目指して、特別な酵母を造ったり、または、具体的な味わいの元になる酵母を特定し、それをブレンドすることで、望む味を造る、といった、先進的な試みがあちこちで行われています。
次いで、造り手です。化学が発展した現代でも、最後は、長年の経験に基づく人間の「技」が味わいに大きな影響を持っています。江戸時代には、各地方の領主の保護や支援を得て、いくつかの主要な地方で造り手のグループが形成されました。彼らの技術は非常に貴重で、農閑期には、求めを受けて、遠方の蔵元まで旅をして、酒造りに携わったと言われています。今や、人間の移動は簡単ですが、それでも、歴史的に酒造りの名人が多く居る地方は未だいくつか存在しています。
そして、最後は、良い水です。酒造りの蔵元を訪問すると、酒造りに使う湧き水を持ち帰ることができる場合が多いです。気持ちの問題かもしれませんが、酒を造る水は、まろやかで美味しく感じます。そして、最近は、酒を造る水(「仕込み水」と言います。)で喉を潤しながら、それから出来た酒を飲む、といったこともあります。
以上を単純化すれば、現代では、米は品種改良できますし、輸送も出来ます。申し上げたように、酵母も化学的に作ることができ、酒の造り手も移動できます。しかし、水だけは、未だ、どのようにしても、移動により「におい」が変わってしまうと言われています。良い酒ができるためには、良い水があることが必要だと言われる所以です。しかしながら、昔に比べれば、良い酒のできる条件に合った土地の幅は相当広がりました。今や、日本中どの県でも美味しい日本酒に出会える、と言っても過言では無いでしょう。皆さんが、選択に困るのも理解出来ます。
ということで、次回、その2では、日本酒の種類や味わいを示す色々な指標についてご説明したいと思います。ご期待下さい!
|