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第十四回 「サービス」って何?

2015年4月20日

 先週(4月13日からの週)は、たまたま、サービスとは何か、について考えさせられた週でした。

 まず、4月13日から、国際産業技術見本市として有名な「ハノーバー・メッセ」が開催され、メルケル独首相やモディ・インド首相の訪問もあって、当地ブラッセルでも、相当なニュースになりました。そこで話題になったのは、「第四の産業革命」です。
 第一の産業革命とは、18世紀末頃から英国で始まった蒸気機関や水力機関の利用による生産性の飛躍的拡大を指します。第二の産業革命は、20世紀初めの電力を使った労働集約型の大量生産方式の導入です。そして、第三の産業革命とは、1970年代に始まった、電子技術の導入による生産工程の部分的なオートメーション化です。
 それでは、「第四の産業革命」とは何なのでしょうか。それは、インターネットとAI(人工知能(Artificial Intelligence) )を本格的に活用して、生産工程の効率化を革命的に高める取り組みです。素人的に言えば、第三の産業革命が生産過程に単純作業をするロボットを導入することだとすれば、第四の産業革命は、ロボットが需要の動向に応じて、自動的に一つの生産過程で異なった製品を製造し供給するということを意味します。このような試みは、ドイツでは「Industrie 4.0」、米国では、一般に「industrial internet」と呼ばれているそうです。同様の考え方は、日本でも既に取り入れられていると聞きますし、また、同じく日本で活発に議論されている、電力供給における「スマート・グリッド」といった考え方と軌を一にするものとも言えます。この分野こそ,技術力に優れ、多様なサービスを提供してきた日本が、今後力を発揮できる分野であってほしいと思います。

lfb_014_ucb1 そのように考えていた矢先、今度は、同じく先週、ベルギーの国際的製薬企業であるUCBの研究開発・生産サイトを訪問する機会を頂きました。そこでは、20年近くに亘り、同社で活躍しておられる女性の日本人の研究者の方にもお会いし、誇らしく思ったのですが、同時に、少し面白い経験もしました。
lfb_014_ucb2 同社では、医薬品の研究開発、生産、更にはパッケージングでも、相当の機械化を導入しています。その中で、ある製品のパッケージングについて、「日本専用」のラインを見せて頂いたのです。何が日本専用か、というと、より丁寧なパッケージングをするために、自動化された工程が最新のラインに比べて少ない、換言すれば、手作業の工程がより多い、一昔前のパッケージングのラインを、日本向けの製品専用に使っているというのです。話を聞いてみると、最新のラインを使った製品を日本に輸出したところ、箱の外側に小さな傷がついている、等々の理由で、相当の割合で返品があったそうで、その状況を改善するために、敢えて、手作業を再度導入した、ということでした。ちなみに、生産性は、最新のラインに比べて半分だそうです。また、他の国向けでは、最新ラインで生産した製品であっても、問題は生じていないそうです。
 会社側としては、日本の消費者のニーズにきめ細やかに応えている、ということの証として、私にわざわざ説明して頂いた訳です。医薬品という高い精度が要求される製品ならではのことでしょうが、「第四の産業革命」と生産効率の飛躍的改善、という話を聞いたばかりの身としては、素晴らしいサービスだと思う一方、その場では、若干、複雑な気持ちがしました。

 そして、最後に、もう一つ、サービスに係る話を聞きました。これは、同じく先週の私の家内の経験です。家内が、町中からの帰りにいつも使うバスに乗っていた際の出来事です。ある停留所をバスが出発して、交差点の手前にさしかかりました。ところが、バスは、次の停留所の前なのに、そこで止まり、ドアがあきました。そして、一人の年配の男性乗客が、杖を突きながら運転手に手を振って下車したのです。そこが、その男性にとって、一番都合のよい降車場所だったのでしょう。確かに、前のバス停からその交差点までは、相当の上り坂で、年配の方にとっては少しきついように見えたそうです。
 日本でも、田舎では、時折みられる風景かも知れませんが、やはり、首都では、なかなか無いことだと思います。これが、ベルギー風の「カスタム・メード」のサービスなのだと、家内は感心したそうです。

 確かに、これは、先に申し上げたUCB社の日本向けパッケージング・ラインに通じるものがあります。ベルギーの懐の深さを示す事例かも知れません。同時に、第四の産業革命が、このような柔軟なサービスを失わせるのではなく、よりきめ細やかなカスタム・メードのサービスを可能にする方向で進展していくことを期待したいと思いました。それが、本来あるべき「人間的なイノベーション」なのかもしれません。

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