大使のよもやま話

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第43回 ベルギーと冬季オリンピック

2014年2月12日

    ロシアのソチで開催中の冬季オリンピックも大会6日目を迎え、次第に佳境に入って来ました。連日の熱戦に私もテレビ中継にくぎ付けになっています。日本選手の活躍は、日本から遠く離れたベルギーに在住していても本当に嬉しいものです。ベルギーからは7選手が参加しているのですが、今のところメダルを獲得した選手はいません。上位入賞が期待された男子スピード・スケート長距離のバート・スウィングス選手が5000mで4位に入り注目されましたが、惜しくもメダルには届きませんでした。そもそも90年に及ぶ冬季オリンピックの歴史の中で、ベルギーが獲得したメダル数は5個に過ぎず、そのうち金メダルを獲得したのは1948年にサン・モリッツで開催されたオリンピックのフィギュア・スケート(ペア・ダンス)ただ1回のみです。因みに、日本は獲得メダル総数が37個(うち金メダル9個)で、113人の選手が参加している今回のソチでは昨日までに2個を追加しており、大会最終日までに更にメダル数が増えることが期待されます。ベルギー人の直近のメダリストは1998年の長野オリンピック、スピード・スケート5000mで3位に入ったバート・フェルトカンプ選手なのですが、この選手のもともとの国籍はオランダで、代表選考に漏れた後にベルギー国籍を取得したという経緯があったようです。オランダはスピード・スケートを中心に冬季オリンピックで多くのメダルを獲得していますが、今回のオリンピックにベルギー代表として参加した7人も全員がオランダ語圏であるフランドル地域の出身者です。当地紙の報道では、フランス語圏であるワロン地域はウィンター・スポーツの練習環境が整っていない由ですが、隣国フランスは冬季オリンピックで頑張っていますので、将来、ワロン地域からスター選手が登場することを期待したいと思います。

<メッヘレン市と日本の結城市は姉妹都市>

yomoyama_043_mechelen2    一昨日の夕刻、ブリュッセルの北30kmにあるメッヘレン市(人口81000人)を訪ね、バート・ソマーズ市長を表敬しました。メッヘレン市は17年前から茨城県の結城市と姉妹関係にありますので、私から市長に対して姉妹都市交流の活性化についてお話をしました。メッヘレン市は、オーストリアの支配を受けていた16世紀の初めに、ベルギーからオランダまでを含む「低地地方」の首都だった時期があり、今でも古都の風格を残しており、当時の建築様式を今に伝える市庁舎の建物も大変立派な歴史建造物でした。市庁舎の近くに立つ聖ロンボー大聖堂は13世紀に建設が開始され、16世紀の初めに97mの高さに至ったところで建設が中断されて今日に至っています。威風堂々たる建築物で、見る者を圧倒するような迫力があります。なお、メッヘレン市と言えばタペストリー(つづれ織り)で有名で、これが紬(つむぎ)織りで知られた結城市と姉妹関係を結ぶきっかけになったのですが、帰り際に市長からお土産にいただいた物は何とウィスキーでした。地元のビール会社が3年前にベルギーで初めてというウィスキーの製造を始めたのだそうです。今から味わうのが楽しみです。

<ベルギー対フランス:食品スーパーの戦い>

yomoyama_043_mechelen1    欧州大国に囲まれた小国ベルギーが経済面でこれらの大国に飲み込まれることなく大いに健闘している姿は大変印象的です。勿論、20世紀後半に入ると、鉄鋼や自動車、電機・ガラスといった業界は全て欧米大手企業の傘下に収まってしまいましたが、化学や医薬品、バイオ産業などは十分な競争力を維持しています。労働コストが高いために労働集約的な製造業は生き残るのが厳しいようですが、一部の先端産業や付加価値の高い業種、あるいはニッチな産業では世界のトップ・クラスの企業さえあります。こうした中、食品スーパーの世界でも、ベルギー企業2社がフランスの大手スーパーであるカルフールに飲み込まれることなく、むしろ競争を有利に戦っているのは称賛に値します。一昨日、そうしたベルギー企業の1つ、「デレーズ」社を訪問し、近代的な配送センターを見学させてもらいました。ブリュッセル郊外に数年前に完成したばかりという巨大な配送センターは全面的にコンピューター管理されており、店舗から注文が入れば3~9時間のうちにベルギーのどこにでも品物を届けられるシステムが出来上がっているそうです。鮮度の高さが求められる生鮮食品の倉庫は温度が常に2~4℃に管理されており、様々な食品を収納したトレイが倉庫内に張り巡らされたレールの上を上下左右自在に運ばれる様子は圧巻でした。ベルギー・デレーズ社のヴァン=デン=ベルヘ社長によれば、労働コストの高いベルギーで合理化を図るためには機械化が唯一の選択肢だとのことでした。
yomoyama_043_delhaize    デレーズ社は1867年にジュール・デレーズ氏がシャルルロワ市(ブリュッセルの南60km)に小さな食品店を開業したのが始まりで、今では世界に3535店舗(ベルギー及びルクセンブルグに852店舗)を展開する大手スーパーに成長しています。世界に16万人の従業員を擁し、年間の売上が211億ユーロ(約3兆円)に上るというから驚きです。最大のライバル企業は同じベルギーのコルリュイト社で、同社が価格で勝負しているのに対し、デレーズ社は品質の高さを売りにしており、このため商品の3分の1(売上の55%)を自社製品で固めているそうです。取り扱っている日本食品はわずかに19品目に過ぎませんが、ブリュッセル市内の3店舗で店頭握りの寿司を販売しているとのことでした。なお、ベルギーには「ルイ・デレーズ」(地域によって「コラ」という店舗名を使用)という似た名前のスーパーがありますが、これは創業者の実弟が19世紀後半に開業した全く別の会社で、今ではフランスの資本下にあるそうです。また、高級食品店として知られるブリュッセルの「ロブ」もカルフールの傘下にあります。食品市場におけるベルギー対フランスの戦いはまだ暫く続きそうです。

<ベルギーの社交クラブ>

yomoyama_043_lorraine    ベルギーには、他の多くの欧米諸国と同様に、いわゆる「上流社会」の人々がメンバーになっている会員制の社交クラブがいくつかあります。ブリュッセルの「セルクル・ゴーロワ」はその代表格で、先月末に外交団を招いて開かれた新年会には300人以上が集まって大盛会でした。発足したのが1847年だそうですから既に160年以上の歴史があります。夜の会合には正装した男女が集まり、9時半頃にやっと食事が始まり、11時半過ぎに食事が終わると場所を変えてのコーヒータイムになります。お開きになるのは深夜12時過ぎというのが普通のようです。私が割と良く出席しているのは「セルクル・ロレーヌ」という1998年に発足したばかりの新しい会員制クラブで、政治家や著名経済人をゲスト・スピーカーに招いた昼食会を頻繁に開催しています。ベルギーの場合、ブリュッセルだけでなく、大きな地方都市にも同じような会員制のクラブがあり、地方名士の親睦会になっているようです。オランダ語圏とフランス語圏でそれぞれ別のクラブになっているのが普通です。19世紀に遡る古い歴史を持っているクラブも多く、会則などには「芸術や文学を語り合う」というクラブ設立の趣意が明記されているようですが、会員資格の審査は厳格で、何となく王国華やかし時代の階級社会の名残を感じるのは私だけでしょうか・・・。

<ベルギーの旅行博覧会>

yomoyama_043_vacance1yomoyama_043_vacance2    先の週末を挟んで、ブリュッセルの博覧会場で、5日間に亘る国際旅行博が開催されました。この博覧会は今年が56回目の開催で、主催者はFISA(国際ボート連盟)というスイスのローザンヌに本部を置く民間団体です。今年は70ヵ国から参加があり、広い会場に750の展示ブースが展開されておりました。5日間で延べ10万人以上の入場者があったようです。今回のイベントの「特別招待国」は南米のペルーだったのですが、主催者が今年からボート関係の国際団体に変更されたこともあって、地中海やカリブ海などを舞台にした海浜リゾートに展示の力点が置かれていたようです。日本も、日本政府観光局(JNTO)と我が大使館が初めて連携して、非ヨーロッパ諸国が集まるエリアにささやかな広報ブースを設けたのですが、日本の観光情報を求める一般客が結構集まってくれました。ただ、他の国のブースを見ると来場者の目を惹くような飾り付けやちょっとした「みやげもの」を提供するような工夫が凝らされておりましたので、我々も来年にはもう少し知恵を絞った集客戦略を練り上げて臨みたいと感じました。

<トンゲレンのヘックス城>

yomoyama_043_hex    昨年の暮れ、トンゲレン市(ブリュッセルの東85km)の郊外にあるヘックス城を訪ね、その美しい佇まいに強い印象を受けました。ブリュッセルの北東85kmほどのところにあるこのお城はギラン・デュルセル伯爵の居城で、18世紀の後半に建てられたものだそうです。デュルセル伯爵はフランス革命時まで半独立国の主(あるじ)として800年の長きに亘って命脈を保ったリエージュ司教公の血筋を引く方で、ベルギーの居城・庭園保存協会の幹部を務めておられます。私は数ヵ月前に伯爵と知り合い、この日にヘックス城への招待を受けました。広大な敷地には何か所にも菜園が拡がり、週末は地域住民にも開放されているとのことです。近郊の山野では狩猟も出来るようで、伯爵自身も立派な猟犬を飼っておられます。城内でご一緒した昼食には地元の有力政治家の方も加わってくれました。暖炉には火が入っており、サロンで食後のコーヒーをいただいていると、城主の生活の一端を窺い知ったような気分になりました。ベルギーにはこうしたお城が300以上あり、フランス革命以前から貴族の爵位を受け継いでいる家系も400近くに及ぶようですので、やはりこの国は「王国」なのだと改めて納得します。

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