大使のよもやま話

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第42回 子供の幸福度で日本は6位、ベルギーは10位

2014年2月3日

    最近、ユニセフが「先進国における子供の幸福度」を調査し、その結果を発表しました。この調査は、データが入手可能な先進31ヵ国のみを対象に、 「物質的な豊かさ」、「健康と安全」、「教育」など5つの分野で順位を決め、その平均から総合順位を算出しています。調査結果を詳細に見てみると、日本は、「物質的な豊かさ」(相対的貧困率や貧困ギャップなど)では下位にあるものの、「教育」(高等教育就学率、ニート率、学習到達度など)及び「日常生活上のリスク」(肥満、飲酒、10代の出生率など)の2分野では全体の1位で、総合順位を6位に押し上げています。他方、ベルギーの場合は、「教育」で3位、「健康と安全」や「住居と環境」などでも全体平均を上回り、「日常生活上のリスク」分野で平均をわずかに下回っているものの総合順位では10位と良い位置にいます。総合順位の1位はオランダで、2位以下に北欧諸国やドイツが並んでいます。意外なのはアングロ・サクソン系の国々の順位が低いことで、英国こそ17位にいるものの、カナダは23位、米国にいたっては29位とほとんど最下位に近い位置付けです。日本とベルギーの場合、全体的に平均を上回る調査項目が多いのですが、そうした中で極端に不成績な項目があり注目されます。日本の場合は「子供の貧困ギャップ」と「低体重児(2500g未満)出生率」が全体の26位、ベルギーの場合は「若年死亡率」(自殺など)で20位、「いじめ」で24位になっています。まあ、何を持って子供の幸福度を計るかは意見が分かれるところだと思いますが、このユニセフのデータは1つの参考指標としては意味がありそうですね。

<オーバーアマガウのNATOシンポジウム>

yomoyama_042_sda1    10日ほど前、ドイツのミュンヘン市から90kmほど離れたスイス国境に近いオーバーアマガウという小さな町でNATOのシンポジウムが開催されました。テーマはNATOと協力関係を結ぶ「パートナー国」との今後のあり方についてで、日本にとっても大いに関係するものです。先週には、同じテーマのセミナーが民間シンクタンクの主催でブリュッセルでも開かれました。NATOはご存じのように28ヵ国の加盟国からなる欧州・大西洋地域の安全保障機構ですが、冷戦終了後の1990年代頃から「利害関係を共有する非加盟国」(パートナー国)との協力関係を重視するようになり、特に21世紀に入ってアフガニスタン問題が発生するとテロ対策強化のため20ヵ国以上の非加盟国から地上軍の派遣を得て、共同軍事作戦を展開するに至っています。現在も、豪州、スウェーデン、韓国といった非加盟国が合計で千人以上の戦闘部隊をアフガニスタンに派遣しています。しかし、本年末をもってアフガニスタンの戦闘任務は終了する予定になっており、そこで培われたNATOと非加盟国との共同軍事作戦などの経験を今後どのように活かしていくかが課題になっています。
yomoyama_042_sda2    私は、今回のシンポジウムやセミナーにおいて基調講演やパネリストを依頼されましたので、NATOとパートナー国の今後の関係のあり方に関する日本の考え方などを説明しました。日本はアフガニスタンにおけるNATO作戦には軍事的には関与しませんでしたが、軍人・警察官の識字教育や医療対策のための資金を供与し、また国連を通じてアフガニスタン警察官への給与支払いのための資金も供与してNATOとの連携を深めました。ソマリア沖における海賊対策では現場に派遣されている海上自衛隊の艦船がNATOやEUの艦船と協力し合っています。今や日本はNATOにとって重要なパートナー国になっているのですが、さて、今後どのように協力関係を深めていくかとなると日本側に多くの課題があります。私は、NATOのパートナーシップ政策が「自由や民主主義といった価値観を基礎にしたものであるべきこと」、また、サイバー攻撃やテロ対策、海洋の安全保障といった新たな安全保障上の課題がグローバルな対応を必要としていることから、欧州・大西洋というNATO本来の活動領域を超えて「世界的視野に立ったパートナーシップ関係を構築すべきこと」を強調しました。日本は安倍政権の下で「積極的平和主義」の推進を標榜していますが、NATOとの関係では、人的交流や情報交換、資金協力といった従来の協力プログラムを超えて何がどこまで出来るのかを真剣に検討すべき段階に至っていると思います。

<ベルギー人女性記者の日本取材レポート>

yomoyama_042_bja1yomoyama_042_bja2    先々週、BJA(ベルギー日本協会)の新年会が150人ほどの会員を集めブリュッセル市内で開催されました。昨年、発足50周年を祝ったBJAは日本とベルギーの企業関係者を主な会員としており、両国の友好協力関係を民間から支える重要な組織に発展して来ています。私は、昨年に続き、トーマス・レイセン会長(株式会社ユミコア会長)らと鏡割りをして新年を祝いました。今回の新年会では特別の企画として、昨年9月に日本を2週間近くに亘って取材旅行した地元ラジオ局の女性記者から日本取材の模様について報告がありました。この記者はBJAの傘下にあるマリロー基金から助成金を得て日本での取材に当たり、帰国後は所属するオランダ語系のラジオ局で5日間に亘って「日本旅行記」のような報道を行いました。取材のテーマは高齢化社会や女性の社会進出から環境問題への取り組み、アベノミクスまで多岐に亘るのですが、日本の現状について様々な「発見」があったようで、類似の経済社会問題に直面するベルギーにとっても学ぶところが多かったとの報告でした。私にとっては、この記者が瀬戸内海の小さな島の過疎化の問題を取材する中で、いったん島を離れた若者が戻ってきている現象に着目したり、退職した高齢者が社会貢献のためにボランティア活動に取り組んでいる姿にベルギー人が学ぶべき点を見出したりしていることが意外に感じられました。また、日本のあらゆる交通機関が時間に正確なので取材が滞りなく出来たとの報告部分では、ベルギーの公共交通機関の欠陥に対する強い皮肉が感じられました。まあ、日本人にとっては当たり前のことでも外国人にとっては新鮮な驚きであることが少なくないようですね。

<BRAFA:貴族社会と古美術品>

yomoyama_042_brafa   昨日まで、ブリュッセルの巨大な見本市会場で「BRAFA」と呼ばれる美術品の展示即売会が開催されておりました。今回は59回目となる伝統あるイベントで、1月25日から9日間に亘る開催でした。私は、正式開会日の前日に催された内覧会に招待され、ヨーロッパの古美術の素晴らしさを堪能して来ました。会場には130社以上の美術商のギャラリーが設けられ、さながら巨大な美術館という感じです。絵画、彫刻から各種の宝石・装飾品まで高級そうな品々が展示されており、なかには江戸期の日本の武具や掛け軸などを扱うギャラリーもありました。私は、婦人用の装飾品を展示するギャラリーでかわいい鳥柄のブローチを見つけ、参考までと思って値段を聞いたところ、4万ユーロ(約560万円)との回答があって腰を抜かしました。ベルギーは現在でも毎年のように国王から爵位が授与され新たな貴族が生まれている国柄であり、お城に住んでいる古い貴族も大勢いますので、古美術品の売買は大変盛んなようです。オランダのマーストリヒト市(ブリュッセルの真東110km)では毎年「TEFAF」というヨーロッパ最大級の古美術見本市(展示即売会)が開催されており、これに比べればブリュッセルのイベントはその何分かの1という規模ではありますが、愛好家や収集家にとってはやはり心がワクワクするような楽しいイベントだろうと想像されました。

<ストレピ=ティウのボートリフトはユネスコの世界遺産>

yomoyama_042_boatlift    ベルギーの東部にはナミュール市内を南北に流れるミューズ川がドイツまで繋がっており、西部にはコルトレイク市内を南北に流れるエスコー川がフランスまで繋がっています。この2つの川を東西に繋ぐようにサントル運河が開かれており、これを利用してドイツからベルギーを通過してフランスまで繋がる水運が19世紀には物流の直通幹線でした。ただ、この運河にはモンス市(ブリュッセルの南西67km)近郊の通過地点で70m以上の高低差があり、この地点で荷物を一旦下ろし別の船に積み替える作業が必要だったのです。この問題を解消するために19世紀末から20世紀の初めにかけて建設されたのが水圧を利用した巨大なボートリフトで、1998年にユネスコの世界遺産に指定されています。「ストレピ=ティウのボートリフト」と呼ばれるこの施設は当時のヨーロッパ水利工学の発達の頂点を示すものと言われています。私は、先日、ドライブがてら見学に訪れたのですが、高さが110m、長さが130mあるというリフトの巨大さは圧巻でした。ただ、「ストレピ=ティウのボートリフト」は現在は使用されておらず、並行して走るもう一つの運河の方に4つの新しいボートリフトが建設(2002年)されています。これによって、かつては300トンまでの船が5時間かけて通過していたものが、今では1350トンまでの船が2時間で通過出来るようになったそうです。ベルギー国内を旅すると縦横無尽に川が流れ運河が切り拓かれていることに驚かされます。鉄道や高速道路が発達した今日でもベルギーでは水運が依然として重要な役割を果たし続けているのです。

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