大使のよもやま話

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第55回 ベルギーの税金事情(再)

2014年6月11日

    先日の地元紙に「ベルギーの個人所得税の高さは欧州一」という記事が出ており、平均で42.8%に上ると書かれておりました。ベルギーの税金事情については、この「よもやま話」(第21回)で一度ご紹介したことがあるのですが、税率については時に名目税率と実効税率との間に大きな差があり、特に法人税率についてはさまざまな優遇・減免措置が講じられているため分かりにくくなっています。ベルギーの名目の法人税率は33.99%で、ヨーロッパでも最も高い国の一つなのですが、実効税率となると26%ほどに下がり、逆に低い方の部類に入るのだそうです(因みに日本の実効税率は約35%で、米国に次いで高い)。ただ、資本所得課税(35.5%)や付加価値税(21%)なども含めた税金の総額はGDPの45.4%に相当し、これはデンマークに次いでヨーロッパで2番目に高く、ベルギーはやはり「税金大国」なのです。ヨーロッパはEUとして統合が進んでいますが、各種の税率は国ごとに実に多様で、それぞれの国の政策的思惑が税率の設定に良く表れています。英国は法人実効税率が23%で外資誘致を積極的に図っており、オランダは資本所得税率を13.7%と極端に低く設定して、世界から資金を集めています。ではベルギー政府の狙いは何かというとガソリン税を低くし(高速料金も無料にして)ロジステイックス(輸送)を支援しているというのですが、現在1ℓ当りのガソリン価格は1.5ユーロ(約210円)であり、日本に比べると30%ほど割高ですので、これが優遇された税率という実感はありませんね。

<G7サミットと安倍総理大臣>

yomoyama_055_wco1    1週間前、2泊3日の日程で、安倍総理が再びブリュッセルにお出でになりました。先月はヨーロッパ6ヵ国歴訪の最後の訪問地として当地を訪問されたのですが、今回はEUが主催するG7サミットに出席するのが目的です。もともとはロシアのソチでG8として開催する予定でしたが、ウクライナ問題がこじれ、急遽、ロシア抜きのG7として開催することになったという経緯があります。yomoyama_055_wco2ベルギーとNATOを担当する私としては、担当業務の面でG7への関わりはなく、会議に参加することもありませんでした。ただ、安倍総理とは2度に亘って会食を共にし、ベルギー情勢やNATOの近況について御説明する機会をいただきました。また、総理は極く短時間ながらWCO(世界税関機構)の本部を日本の総理としては初めて訪問され、御厨事務総局長の案内で本会議場などを視察すると共に、WCOの活動について説明を受けられました。この国際機関は事務局職員が160人ほどの小さな組織ですが、加盟国は179ヵ国と国連本体とさほど変わらない規模で、税関の国際協力促進の上で重要な役割を果たしています(「よもやま話」第6回ご参照)。在外公館に勤務する日本大使として1ヵ月の間隔で2度総理をお迎え出来たことは大変光栄なことでした。

<ベルギーの経済団体>

yomoyama_055_feb    先月の下旬、ブリュッセル市内中心部にあるベルギー企業家連盟(FEB)の本部を訪れ、新会長に就任したばかりのミッシェル・シウン女史とお会いしました。シウン女史については、この「よもやま話」(第51回)で、新会長就任式の模様をお紹介しましたが、特殊繊維加工会社である「シウン・インダストリーズ」の社長職にあり、これまでFEBの副会長も務めておりました。年齢的には40歳台後半で、企業家としては未だ若い世代に属する方ですが、早くから父親が創業したファミリー企業を引き継ぎ、財界活動にも長く関与されて、既に経験豊富な「新会長」なのです。私から新会長と日本との関わりをお尋ねすると「未だ日本に行ったことはないが、日本企業とは若干の取引がある」との回答でした。先月初めに安倍総理がブリュッセルにお見えになった際に「欧州企業家との懇談会」の席で総理の正面に着席してお話し出来たことが大変光栄であったと喜んでおられました。
    さて、このFEBという団体は、ベルギー全体の企業家の集まり(会員企業5万社)なのですが、この他に北部オランダ語圏,南部フランス語圏及びブリュッセル首都圏にそれぞれ別の企業家団体があります。北部の団体は「VOKA」という組織(会員企業1万6千社)で食品会社の社長であるミッシェル・デルバール氏が会長を、南部の団体はUWE(会員企業6千社)でAGCグラス・ヨーロッパ社(日本の旭硝子の欧州子会社)の社長であるジャン・フランソワ・エリス氏が一昨年末から会長を務めています。ブリュッセル首都圏の団体はBECI(会員企業3千社)で、300年の歴史を持つブリュッセル商工会議所(CCIB)を引き継いでいるようです。日本のJETROに相当する貿易投資の促進機関の場合はそもそも全国組織はなく、FIT、AWEX、BIEといった地域組織が個別に取り組んでおり、海外の駐在員もそれぞれ別個に派遣しています。ベルギーの複雑な言語地域事情はこのように経済組織も分化させており、日本人の目から見ると如何にも非効率な感じがしますね。

<オイドンク城に住む伯爵>

yomoyama_055_ooidonk1    先月の末、140年以上も昔にベルギーの初代駐日公使として日本に滞在したオーギュスト・トキント・デ・ローデンベーク氏の足跡を訊ねてオイドンク城に辿りつきました。ブリュッセルの西60kmほどの片田舎に所在するこの古城は16世紀に建てられたスペイン・ルネッサンス様式のユニークな建築ですが、19世紀後半に現在の城主であるグラーフ・トキント・デ・ローデンベーク伯爵の曽祖父が購入し現在に至っています。この曽祖父と祖父の2代に亘って上院議長を務めたという名家で、ベルギー王室とも深い交流を結んでいます。yomoyama_055_ooidonk2この城は、初代駐日公使だったオーギュストが日本滞在を終えて帰国する数年前にトキント・デ・ローデンベーク家の居城になっていますので、もしかしてオーギュストもこの城を訪れたのではないかと想像したのですが、その足跡を示すものは何も残っていないようでした。飾り棚の中に陶器で出来た日本人形が2体あったのですが、オーギュストが日本から持ち帰ったものかどうかは不明です。「よもやま話」(第52回)で記したように1866年に徳川幕府と条約交渉をしたオーギュストは、トキント・デ・ローデンベーク一族でも主筋ではない家系に属し、独身を通したために直系の子孫もいませんので、その足跡を辿るのは難しそうです。

<十字軍とゴドフロワ・ド・ブイヨン>

yomoyama_055_bouillon1    ベルギー史上最大の英雄は誰かと問われると多くのベルギー人は答えに窮するのではないかと思いますが、中世期に限れば、第一次十字軍の指導者の一人で、聖地エルサレムの奪還に成功したゴドフロワ・ド・ブイヨンの名前を挙げる人が多いのではないかと思います。下ロートリンゲン公であった彼は、1096年、強い宗教的情熱に煽られて、兄や弟と共に十字軍に参加します。11世紀末の西ヨーロッパは時間が止まってしまったかのような息苦しい封建制度の下にあり、庶民は固より下級騎士ですら出口のない貧困にあえいでいた時代です。それに比べ、東方のビザンツ帝国やイスラム諸国は文化の発達した豊かな世界であり、それらを征服するという夢と冒険心が当時の西ヨーロッパの多くの若者を狩立てたとしても不思議はありませんね。
yomoyama_055_bouillon2yomoyama_055_bouillon3   ゴドフロワ・ド・ブイヨンは全ての土地・財産を教会に寄進してからエルサレムに向かったと言い伝えられていますが、その土地こそブリュッセルの南東160kmほどのところにあるブイヨン城なのです。古くは10世紀に最初の城が築かれたようですが、現在では12-13世紀頃のものとされる古い城壁の一部が残されているものの大部分は16-17世紀に再建されたものです。私は、3日前の日曜日に、この城をたずね、中世ベルギーの英雄ゴドフロワ・ド・ブイヨンの生涯に思いを馳せたのですが、そのよすがとなるものは何も見出すことが出来ませんでした。どういう訳か鷹匠のような男性が広い内庭を舞台に7~8羽の鷹を飛ばしたショーを見せておりましたが、あれは何だったのでしょうか・・・。

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