第56回 日白外交関係樹立150周年祝賀に向けた準備
2014年6月23日
スイスにあるIMDという調査会社は毎年世界各国の競争力ランキングを発表しています。2014年次報告というのが1ヵ月ほど前に発表されて各国のメディアがこぞって報道しておりましたので、ご記憶の方も多いかと思います。それによると、日本は昨年よりランクを3つ上げて21位、ベルギーは逆にランクを2つ下げて28位という結果です。世界の上位3ヵ国は米国、スイス、シンガポールで変化がありません。ヨーロッパ諸国は変動が大きく、ランクが上昇した国と下降した国のバラツキが見られるのですが、それでも北欧諸国やドイツ、オランダは安定して上位にいます。ベルギーはヨーロッパ諸国の中では14番目で、フランスと共に「中の下」といったところ。法人税などの諸税が高いことがランクを下げる主要因のようです。労働コストが相対的に高いこともベルギー企業の国際競争力を下げるもう一つのマイナス要因かも知れませんね。なお、下位グループにはイタリア、スペイン、ポルトガルといった南欧諸国の名前が並んでおり、世界で40~50番目。アジア諸国のランキングは3位のシンガポールに続き、香港(4位)、マレーシア(12位)、台湾(13位)が上位に食い込んでいます。因みに中国は23位、韓国は26位で日本と大差がありません。まあ、調査会社によって競争力ランキングも微妙に異なるようですからIMDの発表に一喜一憂する必要はないのですが、それでも自分の国の競争力が少しでも上位にランクされるのは嬉しいことですね。
<2016年は150周年祝賀の年>
2016年は日本とベルギーが外交関係を樹立してから150周年になります。この「よもやま話」でも何度か紹介したように、1864年から2年間に亘ってベルギー政府を代表してサムライ時代の徳川幕府と条約交渉を行ったのがオーギュスト・トキント・デ・ローデンベークという人物でした。私は1年半前にベルギーに日本大使として着任して以来、150周年を大々的に祝いたいという希望を持ち続けて来ました。この思いは、先月初めの安倍総理来訪時におけるデイ・ルポ首相との首脳会談で「祝賀実施合意」という形で実りました。この合意は、10日ほど前に主な関係者に大使公邸に集まっていただき祝賀行事を準備する委員会を立ち上げることで意見が一致しましたので、第一歩を踏み出しました。在ベルギー日本大使館、在ベルギー日本人会、BJA及び「フレンズ・オブ・ジャパン」の4団体が中心となり、これに行事ごとに関係する組織・団体に加わってもらいたいと思っています。1年を通して様々なイベントを企画・実施したいのですが、その中でも中核となる行事(複数)を何にするかが今後の検討課題です。既にベルギー側のいくつかの団体とは相談を始めているのですが、それなりに経費もかかりますので、祝賀の趣旨に賛同いただける日・ベルギー双方の企業や篤志家の方々に「準備委員会」(実行委員会)への支援を是非ともお願いしたいと思います。
<ブルガリアで開かれたNATO会議>
先週、ブルガリアの首都ソフィアを30年振りに訪れました。「戦略軍事パートナー会議(SMPC)」というNATO関係の会議に出席するのが目的です。日本はNATOのパートナー国であり、私は初日のオープニング・セッションで基調講演をするという大変名誉な役割をいただきました。この会議にはNATO加盟国とパートナー国を合わせた50ヵ国ほどから参謀総長クラスをトップとする軍関係者200人ほどが参加したようで、議論の中心は本年末にアフガニスタンからISAF(国際治安維持軍)が撤退した後のNATOとパートナー国軍の相互運用性を如何に維持していくかでした。NATOは来る9月に英国で首脳会議を開催予定であり、現在の国際情勢を反映してウクライナの問題に議論が集中しそうですが、同時に各国軍の相互運用性を高める必要性やパートナー諸国との関係強化も議題に上がっています。日本としては、先月初めに安倍総理大臣がNATO本部を訪問したばかりですので、その時に署名された国別パートナーシップ協力計画(IPCP)を踏まえ、今後ともNATOとの協力関係を着実に進めたいところです。
<現代に生きるマルタ騎士団>
戦前、ベルギーの駐日大使を18年務め、150年近くに及ぶ日・ベルギー関係において大使として最も長く日本に在勤したバソンピエール大使のことは「よもやま話」(第31回)でご紹介しました。私は、最近、大使の孫娘に当たる方にお会いし、長時間に亘って大使の思い出話をお聞きする機会を得ました。その際に交換した名刺の1つが「マルタ騎士団ベルギー支部副会長」という肩書になっていたので大いに驚き、お話がバソンピエール大使のことからマルタ騎士団のことに逸れてしまいました。ヨーロッパ中世の歴史に興味のある方は「聖ヨハネ騎士団」のことはご存じだと思いますが、これは、第一回十字軍の後、12世紀の初めにエルサレムに巡礼するキリスト教徒を主に医療面で支援するために誕生した組織ですね。 この騎士団は、その後、紆余曲折を経て16世紀に地中海のマルタ島に本部を移したために「マルタ騎士団」とも呼ばれるようになったのですが、18世紀の末、この島がナポレオンに征服された時に一旦消滅してしまいました。しかし、1870年頃に国際的な医療団体として復活し、1936年にベルギーにも支部が出来たのだそうです。現在では世界に1万2千人の会員を有し、ベルギーにも230人ほどの会員がいるそうです。会員の大半がカトリック教徒であり、発展途上国への医療支援に強い関心を有する「慈善活動家」であるため、比較的裕福な家庭の方が多いようです。「ダヴィンチ・コード」の著者ダン・ブラウンのように想像力が豊かであれば、「マルタ騎士団」の裏には秘密結社が隠されていて様々な国際的陰謀を企図している、という物語になるのですが、実際の活動はかなり地味で、小説のようにドラマチックではなさそうです。
<ロラン財団のチャリティ・コンサート>
先週の週末、ブリュッセルの郊外、ユルプのソルベイ邸においてロラン王子(フィリップ国王の弟君)が名誉総裁を務める動物愛護団体を支援するためのチャリティ・コンサートが開催されました。「ロン・フォン」と名付けられたソルベイ邸はベルギーを代表する大手化学企業の会長であったジャック・ソルベイ氏(故人)の邸宅だったところで、今でもご家族の方々が住んでおられます。その広大な敷地の一角に「冬の庭園」と呼ばれる植物園(温室)があり、そこがコンサート会場になりました。ロラン王子もクレア妃殿下及び3人のお子様方と御一緒に出席され、1時間近くに及ぶジャズ演奏を楽しんでおられました。出演したジャズ・ミュージシャンはサクソフォンがステーブ・ウーベン、ピアノがチャールズ・ルースという組み合わせ。ベルギーでは著名な2人ですね。驚いたのはハーモニカ奏者として世界的に知られたトゥーツ・ティールマンスがゲスト奏者として飛び込み参加し、懐かしい曲の数々を演奏してくれたことです。ティールマンス氏は今年93歳で、最近現役から身を引きましたが、一昨年までは世界各地でコンサートを開催していたそうです。彼は「ハーモニカおじさん」の愛称を持ち、ジョン・レノンを始め多くの著名な西洋音楽家に多大な影響を及ぼしました。マイナーな楽器と思われて来たハーモニカをジャズや映画音楽などのジャンルでは一躍メイジャーな楽器にしたのもティールマンス氏です。日本のテレビ・コマーシャルに登場したこともありますので、日本にもファンがいるのではないでしょうか。ただ、私もそうですが、彼がベルギー人であることは余り知られていません。ベルギーは小国とは言え、多くの才能豊かな芸術家を輩出しており、それがこの国の魅力の1つでもありますね。
<ブランムーシ仲間の漫画家>
今年の3月、私は、スタブロ市のカーニヴァルに招待され、その組織団体である「ブランムーシ」という結社に名誉会員として入会したことは「よもやま話」(第48回)でご紹介しました。実は、その入会儀式において同期生として入会した方が7人おり、先日、「ブランムーシ」結社の幹部と共に、彼らを大使公邸にお招きして楽しい懇談会を開催しました。ベルギーの外務省幹部や実業家、銀行家など多士済々の面々ですが、その中に異色の人物が一人まじっておりました。その方は、ベルギーでは名前を良く知られた漫画家であるヨハン・ド・ムーアさんです。彼の作品はベルギーの新聞や雑誌にしばしば掲載されている他、多くの単行本も出版しています。そうした単行本の1つに「聖なる牝牛」を主人公にした作品があり、ミルクを提供することで人類に多大な貢献をした牝牛の波乱万丈の歴史を「鎮魂の物語」として連載マンガにしています。彼は、我が大使公邸に来るに当たって、その作品の1つを持参し私にプレゼントしてくれたのですが、何と、表紙裏の空白ページには主人公の牝牛に着物を着せたユニークなマンガが描いてあり、吹き出しには日本語で「どうもありがとうございます」と書かれておりました。世界でただ一つのマンガ絵ですので私の宝物になりそうです。
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