大使のよもやま話

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第61回 フラワーカーペットと小便小僧

2014年8月18日

    先日、ベルギー財務省が発刊した今年度版の「税務調査」(全279ページ)を読んでいて、日本とベルギーの相続税制に大きな違いがあることに驚きました。ベルギーの場合、オランダ語圏やフランス語圏の各地域毎に微妙な違いがあるのですが、両国の制度の違いを敢えて一口に言えば、日本は少額の相続には無税(課税控除)か低い税率が適用される一方、高額の相続には非常に高い税率(最高50%:2015年からは55%)が適用される仕組みになっているのに対し、ベルギーの場合は最低相続額でも3%の税率が適用される反面、高額の相続でも30%(オランダ語圏は27%)で頭打ちになっていることです。勿論、この税制には様々な控除・減免措置が組み込まれていて単純な比較は難しいのですが、ベルギーの場合は配偶者や直系尊属が相続者の場合は、総じて「高額相続者に優しい制度」になっているようです。他方、ベルギーでは相続者が兄弟・姉妹や伯父叔母になると急に税率が上がり、65~80%になりますので、同居する配偶者や子供のいない人が死亡した場合は土地・建物(広大な敷地を有するお城など)を相続するのは難しそうです。そう言えばベルギー人の知人で先祖代々居住しているお城に住む独身で子供のいない老紳士は自分の死後はお城を保存協会に寄贈することになると言っていましたし、父親が昨年亡くなったという別の知人は非同居の父親が住んでいたお城を売却中であると言っていました。各国の相続制度の違いを比較するとそれぞれの国が拠って立つ基本理念の違いまで見えて来そうですね。

<ビルボールド市の日本庭園>

yomoyama_061_vilvoorde1yomoyama_061_vilvoorde2    今月の初め、ブリュッセルの北に隣接するビルボールド市に日本庭園が開園しました。ドメイン・ドリー・フォンテイネン(「三泉園」?)と呼ばれる広大な市有地の一角に造られたこの庭園は、ビルボールド市が姉妹提携する石川県の小松市が姉妹提携40周年を記念して寄贈したもので、開園式にはビルボールド市のハンス・ボンテ市長、小松市から和田慎司市長がそれぞれ出席されました。また、小松市からは宮西・市議会議長をはじめとする議会・市の関係者に加え、たまたまこの時期に交流事業でビルボールド市にホームステイしている小松市の高校生8名も参加して盛大な式典になりました。yomoyama_061_vilvoorde3実は、今年の5月、ビルボールド市から小松市に寄贈されたバラ園の開園式が行われ、その時はハンス・ボンテ市長が小松市を訪問したそうです。正に両市長の友情と熱意が実現させた「ドリーム・プロジェクト」と言えそうです。今回の式典では、和太鼓の演奏や小松市の高校生による「よさこい踊り」のパフォーマンス、そして日本庭園内での野点(のだて)も行われました。形骸化してしまう姉妹都市関係が多い中、小松市とビルボールド市のように交流事業がますます活発化しているのは本当に嬉しいことですね。

<グランプラスのフラワーカーペット>

yomoyama_061_flowercarpet1    先週の14日、ブリュッセルのグランプラス(中央広場)を舞台に2年おきに開催されているフラワーカーペットのオープニング・ナイトのイベントがあり、市庁舎のバルコニーから巨大な「花の絨毯」を鑑賞しました。このイベントは15~17日の3日間に亘って開催されましたので、日本からの旅行者やベルギーに在住する日本人の方々の中にはグランプラスを訪れた人も多かったのではないでしょうか。1800㎡(75m×25m)の長方形の中に「トルコ絨毯」を模して色とりどりのベゴニアの花が敷き詰められています。何と、使われたベゴニアの花の数は35万個を超えるそうですが、毎年6千万本のベゴニアを育て、その8割を輸出しているというベルギーならではのイベントですね。
yomoyama_061_flowercarpet2    実は、グランプラスにおけるフラワーカーペット開催の歴史は、200年以上の歴史を誇るゲント市の「花の祭典」(フローラリー)などと比べると非常に短く、第1回目の開催は1971年だそうです。当初は6年おきだったり2年連続だったりと不定期の開催だったのですが、1986年の第5回目からは2年ごとの定期開催となり、今年が19回目となります。このイベントには毎回特定のテーマが設定されており、今年はベルギーとトルコとの間に移住協定が締結されて50周年を迎えたことから「トルコ絨毯」がモチーフとして採用されたようです。今や、ベルギーに在住するトルコ人は22万人に上っており、50周年を祝う意義は大いにありそうです。ところで、今回のフラワーカーペットについては日本のテレビ局であるNHKが準備段階から取材しており、1時間の特別番組として放送する予定のようですので、日本でも多くの方がこのイベントを楽しんでくれるのではないでしょうか。

<武者姿の小便小僧>

yomoyama_061_mannequinpis    ブリュッセルのグランプラスから200mほど路地を南に行くと「小便小僧」の像があります。通りがかっても見過ごしてしまうほど小さな像ながら世界にその名を知られ、観光の名所になっているというのは実に不思議ですね。1619年に噴水として作られたこの像は、地元ブラバント地方の人々の奔放な諧謔趣味の表れと言われていますが、公道の街角で小便をする少年の姿というのは確かにユニークですね。また、この像ほど頻繁に盗難の被害にあっている公共物も珍しく、18世紀にはブリュッセルに攻め入った英国軍やフランス軍が「街の象徴」になっていたこの像を奪ったと伝えられています。最近では1960年代に学園紛争が猖獗を極めた時期に学生に奪われたことがあったようです。
    「小便小僧」をめぐってもう一つ興味深いことは古くからこの像に衣服を着せる伝統があって、これは17世紀末にスペイン国王の名代としてブリュッセルに駐在した総督がこの像にスペイン風の衣装を着せたのが始まりと伝えられています。グランプラスの市庁舎の対面にある「王の家」は今ではブリュッセル市の歴史博物館になっているのですが、その3階に様々な衣装を着た小便小僧の像が沢山陳列されています。ガイドブックに拠れば760体の像が陳列されているようですが、その中に明らかに日本から寄贈されたと思われる衣装を着た小便小僧の像が2体あります。1つは「桃太郎」の衣装を纏っており、もう一つは武者姿をしています。どういう機会に誰が寄贈したものなのか興味がありますね・・。

<ラベンシュタインのゴルフ場>

yomoyama_061_golf1    ブリュッセルの南東郊外に王立ベルギー・ゴルフクラブ(RGCB)、通称「ラベンシュタイン」という名門ゴルフ場があります。ゴルフ好きの私は、このクラブの年間会員になって、週末になると(仕事上の都合が許す限り)ゴルフ場に足を運ぶようにしています。特にこの夏はバカンスでベルギーを離れることもなく、週末毎に開催される「サマー・チャレンジ」という会員コンペに全て出場してベルギーの方々との同伴プレーを楽しんでいます。ベルギーのゴルフ環境はすばらしく、会員の場合は、予約を入れることもなく、行けば(例え一人でも)自由にプレーできることです。日本のように3~4人のチームを組んで予約を入れ、キャデイーさん付きの電動カートでプレーし、前半と後半の間に1時間近い昼食を挟まなければならないという面倒さはありません。yomoyama_061_golf2このゴルフ場の会員は1800人に及ぶそうですが、(高齢者が多いこともあって)実際にプレーしているのは250~300人くらいで、残りの会員はクラブ・ハウスで友人と食事をしたりブリッジを楽しんだりというメンバー・ライフを送っているようです。特に夏になると大半の会員がバカンスに出てしまうためゴルフ場はガラ空きで、時には私一人が貸切のような状態でプレーしていることもあります。日本では全く考えられないことですね。ただ、問題は10月後半から4月半ばまでの半年近くに亘って冬の寒さとコースがぬかるむためにプレーするには不向きな時期になることです。さて、私が帰国する9月から数か月は日本では紅葉の秋を迎え、東京近郊の多くのゴルフ場が最も美しい季節を迎えます。帰国後も暫くは「老人ゴルフ」を楽しみたいと思います。

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