ベルギーの街角から:日本大使からの一言

平成29年7月24日

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第3回 2つの姉妹都市間の交流事業

 国と国との交流を支えるものは、結局は人と人との交流にほかなりません。その意味で、日本とベルギーとの交流の幅を広げ、深めて行くためには、両国の間の人と人との交流を一層活発なものにして行く必要があると考えられます。人と人との交流を進めて行くやり方には様々なものがありますが、今回は、姉妹都市の間の交流を取り上げたいと思います。実際、日本とベルギーの間には8つの姉妹都市の関係があり、その中には大変活発な交流が行われているものがあります。今年の6月には、このような日本とベルギーの姉妹都市の間で、双方の市長が参加する2つの交流事業がありました。

 その一つは、埼玉県羽生市とリュクサンブール州デュルビュイ市の姉妹都市交流で、6月初旬に、河田晃明市長を団長とする羽生市の一行がデュルビュイ市を訪問しました。
 羽生市は、市の北側を流れる利根川の豊かな水と肥沃な土地柄から、古くから農業と藍染の町として知られて来ましたが、現在では自動車部品産業をはじめとする物づくりの町でもあります。これに対して、デュルビュイ市は、ベルギー南部のワロン地域リュクサンブール州の北西、オルト川に沿った渓谷に位置する町で、かつては地域の商業・工業の中心の一つであったそうですが、現在では観光地・保養地として知られています。市の中心部には、小さくて愛らしい中世そのままの街並みが残されていて、根拠は定かでないようですが、しばしば「世界で一番小さな町」と呼ばれています。
 このような二つの市が姉妹都市としての関係を構築したのは、1994年のことでしたが、両市が結びつくに当たり、当時の駐日ベルギー大使であったパトリック・ノートン氏の役割が大きかったと聞いています。決して規模が大きくはない両市が姉妹都市としての交流を続けて行くには難しい点もあったと思いますし、交流が停滞した時期もあったようですが、両市の関係者のご尽力により、市民の間の交流が20年を越えて継続し今日に至っています。今回も、デュルビュイを訪問した一行は、現地で開催中だった国際彫刻シンポジウムの場を活用して交流事業を行ったり、今年秋に羽生市にデュルビュイから青少年を招く計画の詰めの作業を行ったり、活発に活動されました。
 6月1日には、ブリュッセルの日本国大使館広報文化センターにおいて、羽生市の河田市長及びデュルビュイ市のデュムーラン副市長をはじめとする両市の関係者に参加いただいて、「羽生・デュルビュイ=姉妹都市以上の関係」と題して両市の魅力を発信するイベントを開催しました。羽生市の職員の方々が、市の魅力についてプレゼンテーションを行うとともに、羽生市産の藍染の製品や日本酒、ゆるキャラ「ムジナもん」について、ベルギー人の参加者に英語で丁寧に説明している姿は、姉妹都市交流の意義を伝える印象的なシーンだと感じました。

 もう一つは、石川県金沢市と東フランダース州ゲント市の姉妹都市交流で、6月中旬に、ダニエル・テルモント市長を団長とするゲント市の一行が金沢市を訪問しました。
 金沢市は、16世紀後半からの歴史と伝統が良く保たれ、日本国内はもちろん海外からも多くの観光客が訪れる人気の都市です。2015年に北陸新幹線が乗り入れ、益々その魅力を増しています。これに対し、ゲント市は、ブリュッセル及びアントワープに次ぐベルギー第3の都市で、中世以来織物業と中継取引で繁栄した面影を今でも見事に保存しています。また、ゲント大学はベルギーを代表する大学の一つで、日本語・日本研究も盛んです。
 このように金沢市とゲント市は、豊かな歴史と伝統に基づきながら、未来に向かって発展を続けるという、類似した特色を持つ都市であり、日本とベルギーの間の姉妹都市として、これ以上にないほどお似合いの組み合わせに思えます。両市が姉妹都市としての提携を結んだのは1971年のことで、それから45年を越える交流を重ねて来ました。
 その金沢市では、JETプログラムの下で国際交流員(CIR: Coordinator for International Relations)としてベルギーから派遣された方が活躍しています。これまでは、ウェルナー・ファンホーレンベークさんという、ゲントのご出身でゲント大学で日本語を学んだ方が、ゲント市との姉妹都市交流を含む金沢市の対外活動を支えてくれました。この夏には、ベルト・コリンさんという、ベルギーにおける日本語・日本研究の最大の中心である蘭語系ルーヴェン・カトリック大学(KUL)で日本語を学んだ方と交代する予定です。今後は、コリンさんが、金沢市とゲント市の交流の一層の促進に活躍されることを期待しています。
 6月19日に、テルモント市長のお招きを受けて、ゲント市を訪問して来ました。テルモント市長は、ちょうど金沢市訪問から戻ったばかりで、両市の間に見られる多くの共通点や今後の両市の交流計画について熱意を持って語って下さいました。その後、ゲント大学を訪問し、文学部日本学科の教授や学生さん達とお話しするとともに、金沢市からゲント大学に寄贈された日本庭園「濫觴(らんしょう)の庭」を見学しました。姉妹都市の間の交流が日本とベルギーの人々を巻き込み、活発に人と人との輪を作り出している姿に接することが出来、大変印象的でした。

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