第三十九回 オメガングとNATOサミット
2016年7月14日
前回に続いて、2つの違うお話の紹介です。
オメガング
7月5日と7日の両日、ブリュッセルのグランプラスで、「オメガング」が行われました。「オメガング」とは、古いフラマン語で「輪になって歩く」という意味です。毎年一回行われるこのイベントでは、神聖ローマ帝国のカール大帝とその息子フェリペがブリュッセルを1549年に訪問した際の歓迎セレモニーを再現します。当時の貴族の実際の末裔の方々を中心に、16世紀の装束に身を包み、特設スタンドが設置されたグランプラスを練り歩くのです。最初に、カール大帝とフェリペに扮する人物が、馬車に乗って、お付きと一緒に入場し、正面スタンドに着席します。その後は、二人を楽しませるために,色々なグループが思い思いの時代衣装を着て、その前をパレードするのです。最後は、高いものはビルの3階分位の竹馬に乗った一群が登場し、クライマックスでは、竹馬同志で、最後の一人になるまで騎馬戦を行います。そして、花火が打ち上げられ、終了です。夜の21時頃から始まり、終了は真夜中近くになる,ブリュッセルでも、人気が高い一大イベントです。
今回のイベントでは、今年が日本ベルギー友好150周年であることを記念して、日本が招待国になるという光栄に浴し、5日には、私も参加させて頂きました。実際のパレードが行われる前、いわば,冒頭に、当地でベルギー人の方々がやっている和太鼓のグループに先導され、私と家内他、日本人、ベルギー人双方の「ボランティア」の方々が、オメガングの向こうをはって、16世紀の戦国時代を模した衣装を着て、日の丸を掲げて、グランプラスをパレードしました。 私の衣装は武家の正式装束である「直垂(ひたたれ)」ですが、実は、持ち主はベルギー人の方です。観客の方々から大きな声援を頂き、私もボランティアの方々も、非常に貴重な経験を楽しみました。
ちなみに、オメガングは,毎年、7月の第一木曜日と、その直前の火曜の2日間行われる決まりです。なぜその間の水曜日に行われないのか、というと、実は、このイベントは雨天決行で、雨が降っても16世紀そのまま、傘を使わないことになっています。ということは、何時雨が降ってもおかしくないベルギーでは、火曜日のパレードで衣装がずぶ濡れになる可能性があるということです。だから、水曜日一日をかけて、衣装を乾かす必要がある、というのがこの決まりが出来た理由らしいです。如何にもベルギーだな、と思いました。
NATOサミット
オメガング2日目の7月7日は、大使館の山田公使に出演他をお任せし、私は、翌日から行われるNATOサミットに出席するため、ワルシャワに出張しました。
今回のサミットは、現在NATOが直面する「東」,すなわちロシアやウクライナ・クリミア情勢への対応と、「南」,すなわち、難民問題やアフガニスタン、イラク、ISIL等のテロ問題への対応を,バランスの取れた形で強化していく、という大事な機会でした。また、Brexitについての英国の国民投票の結果を受けて、安全保障の分野では英国は引き続きNATOの強力な一員で有り、欧州の安全保障強化に向けて引き続き強くコミットしていることを示す,重要な機会でもありました。
日本も、開発・治安の両面で大きな貢献をしているアフガニスタンにおける対応についてのNATO加盟国と協力国との会合と、NATOとそのパートナーとの間で相互運用性を強化していくための会合の2つに招請され,参加しました。
終わってみると、このサミットは、種々の重要な決定がなされた大事な会合になったと思います。
「東への対応」については、バルト三国とポーランドに各一大隊の規模の強固で多国籍な部隊をローテーションの形で配置することとし、2年前にウクライナ問題発生後に行われたウエールズ・サミットで行われた決定を着実に実行に移す一方、NATOの意図に対する誤解を避けるために、ロシアと対話と情報交換を頻繁に行っていくことなどを決めました。
「南への対応」においては、対イラク能力構築支援の拡大、NATOから対ISIL有志連合への情報提供の強化、地中海における違法難民取り締まりのためのEUのソフィア作戦への協力などが発表されました。
これに加えて、サイバー防衛の一層の明確化、NATO本部のインテリジェンス部門の強化、防衛予算の拡大の継続などが決められました。
更に今回、NATOとEUとの連携の強化について共同宣言に署名し、今後の作業の具体的方向性を示したことは、Brexitがもたらしうるマイナスの側面へ対処する上でも、非常にタイムリーなことだと思います。
ちなみに、首脳会合は、前々回のEurocapサッカーが行われたスポーツ・スタジアムで開催されました。首脳会合は、グランドに設置された特別会場で行われ、各国代表団の控え室やプレスルームは、その回りにあるボックス席などに設置されました。セキュリティから、会合の回し、更には、食事のアレンジなど、ホスト国ポーランドのアレンジは素晴らしかったと思います。
なお、次回の首脳会合は、異例ではありますが、来年、新たなNATO本部落成に会わせて、ブリュッセルで行われることが発表されました。実は、歴代米国大統領は,一度もNATO本部を訪問したことが無いらしく、その意味でも,来年のNATO首脳会合は、米国新大統領が出席する、重要な会合になります。日本も,これから、問題意識を持って,準備していきたいと思います。
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