第18回 ソロプチミスト・クラブを御存じですか?
2013年5月23日
ベルギーに進出する外国企業にとって悩ましいことの1つは労働コストが高いことです。特に、労働集約的な産業の場合は、高い労働コストを製品価格に反映させざるを得ないため、発展途上国からの安価な輸入品との価格競争では「致命的」と言えるほどに不利な立場に立たされることになります。では、ベルギーの製造業における賃金水準は他の国と比べてどれほど高いのかというと、2012年の平均額で「1時間当たり37ユーロ(約4800円)」だそうですから、確かに驚きます。因みに、地元紙の報道によると、日本の場合は「時給27.46ユーロ(約3500円)」で、先進国の中では「中のやや下」というところでしょうか。フランスは日本と比べて25%ほど高く、ドイツも10%ほど高くなっています。米国や英国は日本を15~20%ほど下回ります。先進国の中でも発展途上国などから安価な労働力が多数流入している国の場合は賃金水準が低くなっています。ベルギー製造業の賃金水準が世界トップ・クラスであることは間違いないのですが、この背景には雇用主による社会保障費負担27%相当分が含まれており、被雇用者の所得に対する課税も高額のため、ベルギー人1人ひとりの手取り給与で見ると、意外と低いのもまた事実です。統計上で賃金水準第1位のスウェーデンや第2位のデンマークも同じような状況にあるのではないかと思われます。
<引き続く地方首長への表敬訪問>
先週、東フランドル州を訪問して、2人の副知事にお会いしました。フェルカメル副知事とフェルスニク副知事です。ブリエルス知事は先般の列車事故の事後処理で多忙を極める中、前日に前任の州知事がお亡くなりになるというハプニングも重なったためにお会いすることは出来ませんでした。東フランドル州は人口143万人、ゲント港とアントワープ港(西岸)の2つの港を擁する豊かな州であり、ベルギーの対日輸出の90%以上に関わりを有しています。日本からの観光客はゲント市など州内に宿泊した客だけを数えると2039人(2012年)だそうで、4年前の3506人をピークに減少傾向にあるとの説明でした。州当局としては、経済活性化のためロジステイックスの重点を陸上輸送から水路と鉄道を一層活用する方向へシフトさせたいとのことでした。私からは州内に20近い日本企業が進出しているので引続き支援して欲しいと申し上げました。
同じ日に、東フランドル州第3の都市であるシント・ニクラース市(人口73000人)を訪ね、デハンドシュッテル市長と昼食を御一緒しました。今年1月に就任したばかりの新市長にとって最初の課題は財政の健全化だそうで5%の予算削減に取り組んでいるとのお話でした。また、郊外型の大型店舗の進出によって市内の商店街が寂れてきており、この活性化を図ることも優先課題だそうです。また、近年閉鎖に追い込まれた工場の跡地を整備して住宅地に転換する事業を進めていることもあって、市の人口が増え続けているとの興味深いお話を伺うことも出来ました。シント・ニクラース市と言えば、毎年9月に行われる「平和の祭典」(20~25の気球を中央広場から飛ばすイベント)が有名ですが、この行事は何と百年以上も続いているとのことです。また4年後には市制8百年を記念する行事が予定されているとの説明にも驚きました。
先週末には、リエージュ市(人口192500人)のデメイエル市長と懇談しました。市長は1999年から現職にあり、3年前からは連邦上院の第一副議長も兼務しておられるワロン地域社会党の重鎮です。歴史に造詣が深く、市庁舎が15世紀と17世紀に2度破壊され、現在の建築は18世紀に再建されたものであることや、市長室の壁装飾も歴史遺産に指定されているが、これもオリジナルではなく修復されたものである等の説明がありました。市政については隣接するドイツ・オランダの主要都市との経済圏の発展やリエージュ大学から派生した先端産業の振興を重視する考えを示されました。また、歴史・文化都市としてのリエージュの特色を守るため、現存する各種の遺産の保護・保存にも注力しているようです。なお、リエージュ市周辺に所在する日本企業は数社にとどまりますが、市長としては一層の企業誘致のために連携を密にしたいとの意向を示されました。
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東フランドル副知事 |
シント=ニクラース市長 |
リエージュ市長 |
<フランドル地域の名門高等教育機関、ゲント大学>
去る4月、ブリュッセルの西60kmほどのところにあるゲント大学から招待を受け、ファン・カウウェンベルヘ学長らと懇談すると共に、日本学科のニーハウス教授の求めにより、同学科の70人ほどの学生を前に「日本の社会と文化」について1時間ほど講演をしました。私は、少子高齢化が進み国民人口が減少する中で如何に経済発展に必要な労働力を確保するかが今後の日本社会にとって大きな課題だということを説明し、世代間のギャップを埋める努力も必要であることを強調しました。その上で、21世紀後半には多くの国で少子高齢化が進むことが確実視される中で、日本は「先行モデル」を世界に提示すべき立場にあると申し上げたのですが、果たして学生たちに理解してもらえたかどうか余り自信はありません。ところで、ゲント大学は42のキャンパスが市内各地に分散しており、メイン・キャンパスらしきものがないことに驚きました。学生数は36500人と多く、しかも、その3分の1以上が修士課程と博士課程に在籍しているのが特徴のようです。外国からの留学生は4000人と11%に過ぎないのですが、その大半は英語で教育が受けられる大学院に集中しており、特に中国から250人近い学生がバイオやナノ・テクノロジーの学科に在籍しているとのお話でした。また、今月、韓国の仁川(インチョン)にゲント大学として初めての海外分校(学生数は約1000人)を開校したようです。そうした中、ゲント大学全体で見ても日本人留学生はわずかに7人にとどまるとの説明に少々寂しい思いがしました。
<日本企業の歴訪>
既に1ヵ月ほど前のことになりますが、ベルギーの北東端に位置するリンブルグ州を訪ねた折に、パナソニック・エナジー・ベルギー社(従業員360人)を視察しました。この会社は日本のパナソニック本社のエネルギー・デイヴァイス・ビジネス事業部が海外に展開する19の工場の1つで、1970年にオランダのフィリップス社との合弁により創業し、その後、2001年に100%子会社化しています。事業内容はアルカリ電池の製造に特化しており、完全に自動化された工程で年間8億個の電池を製造しています。販売先は全欧州から北アフリカ、ロシアまで拡がっているのですが、注文を受けてから5日以内には配達することで顧客の信頼を勝ち得ているようです。欧州でのシェアは20~25%ほどに上るのですが、そのうち自社ブランドで販売している製品のシェアは半分以下だそうで、このシェアを如何に拡大するかが利益率向上の鍵になっているようです。それにしても、1分間に1千個以上の電池を製造する工程は圧巻でした。従業員1人当りの生産個数(生産性)も年々着実に上昇しており、今後の業績拡大を期待したいと思います。
その翌週、アントワープ市のリッデルケルク地区にあるユーセン・ロジステイックス・ベネルックス社を訪ねました。同社は、「日本郵船」(1885年創業;従業員総数54693人)の孫会社で、ベルギーへの進出は1989年ですが、その後の業容変更もあり、現在の業務体制になったのは2年ほど前のことだそうです。同社はベネルックス3国の外にスウェーデンを担当しており、17か所の倉庫を拠点に従業員900人が国際運送業務を担っているとのことですが、ベルギー国内に限ればシャルルロワ市を含めて倉庫は9つ、従業員は600~650人だそうです。リッデルケルクの倉庫は巨大で、自動車部品から電化製品、医療機器そして一般消費財まで実に多様な貨物を取り扱っている様子が窺がわれました。ただ、今のところ、顧客の過半が日本企業関係だそうで、これを広く欧米企業まで拡大することが今後の課題だと語ってくれました。
<ソロプチミスト・クラブでの挨拶>
先の週末、ソロプチミスト・クラブ(ブリュッセル)の創立75周年行事の開会式に来賓として出席し、ご挨拶する機会がありました。クラブの会員や友好団体の代表の方々など150名ほどの女性の前で短いスピーチをしたのですが、女性だけの会合で話をするのは結構緊張しますね。ソロプチミスト・クラブというのは女性企業家を含む「職業婦人の奉仕組織」で、1921年に米国カルフォルニアで最初に結成され、その後、ベルギーでもアントワープやブリュッセルなど各地に同様のクラブが生まれて行ったようです。ロータリー・クラブやライオンズ・クラブの女性版ですね。今や、世界120ヵ国以上に3千近いクラブがあって、会員数は9.5万人に及ぶとのお話でした。日本では1960年に東京に最初のクラブが誕生して以来、現在は全国に500以上のクラブ(会員数13400人)があるとのことです。活動は、各クラブの地元における福祉事業の他、女性や女児を支援する国際プロジェクトを推進しているようです。東日本大震災の時も被災した子供たちのために育英資金を提供してくれています。今回のブリュッセル・クラブ創立75周年大会には日本のソロプチミストである「駿河クラブ」の代表の方々も出席しておりました。女性の人権が守られるだけでなく、その地位が向上して社会的に一層活躍できる環境が整えば自ずからその社会に活気が生まれ、経済的な発展も促進されると思います。ソロプチミストとはラテン語からの造語で「女性のためにベストを」という意味だそうですが、私も一人の人間としてソロプチミスト・クラブのますますの発展を祈念したいと思います。
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