大使のよもやま話

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第41回 フィリップ国王が主催した初めての新年賀詞交換会

2014年1月17日

    フランスをはじめ一部のヨーロッパ諸国には1月6日に「王様たちのガレット」というパイを食べる習慣があります。このパイは生地の中にアーモンド・クリームが挟んであり、その中に「フェーヴ」と呼ばれる小さな陶製の人形(昔は「そらまめ」だった由)が隠されています。先日、フランスの新聞を読んでいたら、オランド大統領がエリゼ宮に巨大なガレットを用意し、大勢の招待客に分け与えている写真が掲載されておりました。この伝統はキリスト教と関係があるようで、古代ローマ時代の小アジアにおいてイエス・キリスト生誕日の12日後(公現祭の日)にその洗礼を祝い、幸運がもたらされることを願って信者の人たちが一堂に会して食べたのが始まりのようです。「王様たちの」という表現は、イエス・キリスト生誕の時に現れた「東方の三博士」のことを示すものです。今では、ガレットを切り分け、分け与えられた分の中に「フェーヴ」が入っていた人に向こう1年間に亘って幸いが訪れるといったゲームのような楽しみ方をしています。先日、私もベルギー人の友人からガレット・パーティに招待され、パイの切片を3つも食べたのですが、残念ながらどれにも人形は入っておらず、今年の幸運から見放されてしまいました。なお、「ガレット」というと我々日本人にはそば粉を使ってクレープのように鉄板の上で薄く焼いたブルターニュ料理を思い浮かべますが、「王様たちのガレット」はパイ菓子ですので全く別物ですね・・・。

<フィリップ国王による最初の新年賀詞交換会>

yomoyama_041_king    3日前、ブリュッセル王宮において、フィリップ国王による外交団との新年賀詞交換会が開催されました。毎年恒例の行事で、私にとっては昨年に続き2度目の出席ですが、今回は、昨年7月に即位された新国王による初めての賀詞交換会ということでとても新鮮な感じがしました。王宮の儀典の方に伺ったところ、出席した大使は163名(その過半が夫人同伴)、その他に(大使不在などの理由により)臨時代理大使として出席した者が23名いたそうです。各大使は着任の順番に整列して、順次、国王及びマティルド王妃に賀詞を言上するのですが、これが一巡すると別室でパーティが行われ、各大使には国王及び王妃と改めて懇談する機会が与えられます。私は、国王への御挨拶の中で、近い将来に日本を公式訪問されることへの期待を申し上げました。マティルド王妃は1年半前に皇太子妃として訪日した時の印象を語られ、毎朝抹茶を喫飲する習慣は今も続いていますと笑顔でおっしゃられました。日本の皇室とベルギー王室の交流がますます緊密化していることは大使として誠に嬉しい限りです。

<大使公邸での新年会、今年の誓いは「前向き思考」>

yomoyama_041_newyear1yomoyama_041_newyear2    先週、大使公邸において日本人会会員企業など在留邦人社会の代表の方々120名ほどをお招きして恒例の新年会(賀詞交換会)を開催しました。私にとっては、昨年に続き大使として主催する2度目の新年会になります。参加された皆様には「おせち料理」を味わっていただいたのですが、好評だったのは昨年と同様に「白玉入りお汁粉」だったようです。出し物についても格別の新たな趣向はなかったのですが、地元の和太鼓チームにお願いして、会の冒頭30分ほど、正月らしい太鼓演奏を披露してもらい、また、日本酒の試飲コーナーを設けたりしました。私は昨年の挨拶では「向こう1年間、愚痴をこぼしたり不満を言ったりするのを止めましょう」と申し上げたのですが、今年は「何事にも前向き思考で臨むこと」を新年の誓いとしたいと申し上げました。yomoyama_041_newyear3やるかやらないか迷った時には「やる」方を選択しましょうということです。勿論、闇雲な猪突猛進はいただけませんが、消極思考の故にチャンスを逃してしまうのは残念です。目標に向かって、しっかりと達成手段を考えれば、不可能に見えることでも可能なことはたくさんあります。安倍総理の新経済政策である「アベノミクス」についても当初は多くの経済専門家から否定的な意見が出されておりました。しかし、失敗を恐れて何もしなければ新しい局面は開けないのです。決断することは結果について責任を取ることでもありますが、各々が置かれた立場、レベルに応じて「決断」することがなければ「進歩」もないと思うのですが、如何でしょうか。

<ブリュッセルの欧州モーターショー>

yomoyama_041_motorshow1yomoyama_041_motorshow2   昨日からブリュッセル市内で向こう10日間に亘る「欧州モーターショー」が開催されています。私は、主催団体であるベルギー自動車連盟(FEBIAC)の招待を受け、ショーの初日である昨日、BJA(日白協会兼商工会議所)の皆様と共に視察して来ました。この日は「ジャパン・デー」に指定されており、私の会場到着に合わせて日本の国家「君が代」を会場全体に響き渡るように流していただきました。世界の主要自動車メーカー43社の展示コーナーの中にトヨタなど日本の自動車メーカー9社が出品した各種モデル100台ほども会場のあちこちに展示されており、ヴァン=カーンFEBIAC会長直々のご案内を得て、2時間近く視察することが出来ました。このモーターショーは今年が92回目という歴史と伝統のあるイベントで、1年おきに大規模開催と小規模開催を交互に繰り返しており、今年は大規模開催の年に当たります。11日間のイベントで65万人ほどの入場者を見込んでいる由で、展示会場では即売も行われており、かなりの割引が得られるとのことでした。ベルギーの自動車市場は年間売上げ台数が50万台ほどの小さな市場であり、しかもその半数が従業員に貸与される社用車という特殊な市場ですので、こうした大掛かりなモーターショーを継続して開催しているというのは少々驚きですね。

<もう一つのブリュッセル自由大学>

    先月、ブリュッセル自由大学(VUB)のコーネリス副学長を訪ね、オランダ語による大学教育の現状や東アジアの諸大学との交流状況などについてお話を伺いました。この大学は1969年に言語紛争の末に分裂したオランダ語の方の自由大学(もう一つはフランス語のULB)で、現在の学生数は13000人ほどだそうです。VUBの特徴は外国人学生の割合が高い(23%)ことと修士・博士課程の学生が多いことです。特に、理系(エンジニアリング、医学、バイオ)の大学院の場合は半数が外国人で、中国人学生だけでも200人近く在籍しているというから驚きです。その中国は、2006年に「ブリュッセル現代中国研究所(BICCS)」の学内発足に協力しており、中国の内政・外交からEUとの関係まで幅広く大学院レベルの教育が受けられる体制になっています。また、最近、「EU韓国研究所(EKI)」も開設されており、こちらでは主に北東アジアの政治・経済及び安全保障などの研究が可能になっているようです。残念ながら、日本との関係は希薄で、山形大学や神戸大学、京都大学などと若干の交流が行われているに過ぎません。なお、2014年から「ブリュッセル外交学院」という新たな大学院コースが開設されるようです。外交や国際ビジネスの分野で活躍出来る人材の育成が目的だそうですが、私立大学でこうした高等教育が行われるのは如何にも国際都市ブリュッセルらしいですね。

<巨人祭り、暗い町並み、そして自殺>

yomoyama_041_ath    ブリュッセルの南西60km弱のところにアトという人口28000人ほどの小さな町があります。この町は毎年8月の第4週末に行われる「巨人祭り」によってベルギー人の間で広く知られており、この祭りは2005年にユネスコの世界無形遺産にも指定されています。旧約聖書に登場する巨人ゴリアテの人形を始め様々な巨大人形が繰り出されて町中を行列して練り歩くようです。北フランスからベルギー南部一帯には昔から巨人伝説があり、アトの「巨人祭り」も15世紀から続いているとのことです。市内中心部の近くに「巨人の家」という小さな展示館もあって巨人にまつわる昔話から「巨人祭り」の様子まで紹介されています。それによれば、中世末の頃に文字の読めない人々に聖書の物語を理解させる目的で「巨人祭り」が考案されたようです。また、この町の近くにはベローユ城やアトレ城など古いお城がいくつかあってちょっとした観光の名所になっています。先日の週末、ドライブがてらこの周辺を見て回ったのですが、アトの町を訪れて意外な感じがしたのは、ベルギーの他の古い町の場合と異なり、この町では教会が中央広場に面しておらず、町のはずれに位置していることです。しかも町の南側に高い建物があるため、日が短い冬の季節には日中でも太陽が遮られて町全体が暗い感じがします。そう言えば、昨年の暮れにベルギーの議会に報告された2010年の「自殺統計」に拠れば、ベルギーの各州の中で、最も自殺者が多かったのはアトの町もあるエノー州であり、中でもアトの町の自殺率(人口10万人当たり25人)は際立って高いとのことです。巨人祭りと暗い町並み、そして自殺。さて、これらの間に何らかの共通点があるのかどうか、疑問に満ちた郊外ドライブになりました。

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