尖閣諸島-真実はひとつ-

平成25年1月30日

1月9日付の中国大使館の投稿記事を拝読した。同記事において基本的事実が歪曲されたり,語られていないのは遺憾であり,以下の通り同氏の寄稿に沿って再度反論する。

1 初めに真実は一つであるということに同意する。そして,尖閣諸島が歴史的にも国際法上も日本固有の領土であり、現に日本が有効に支配しているというのが真実である。したがって、領土問題は存在しないとの一貫した日本の基本的立場は中国側のいかなる議論にも影響されない。

2 下関条約調印の際(1895年4月)、尖閣諸島が台湾とともに日本に割譲されたとの中国の主張は全く事実に反する。日本は日清戦争以前の1885年から現地調査を行い、尖閣諸島が無人島であるだけでなく、清国の支配が及んでいる痕跡がないことを慎重に確認した上で、下関条約締結に先立つ1895年1月の閣議決定において、無主の地として先占の法理で尖閣諸島を編入した。したがって、その後に結ばれた下関条約で割譲された台湾に尖閣諸島をわざわざ含める必要性は生じないのである。ちなみに、井上清氏は日本政府とは全く関係のない人物であり,彼が著名な歴史学者であるとは承知していない。

3 昨年9月の日本政府による尖閣諸島の購入は,国内の所有権移転であり,平穏かつ安定的な維持・管理を目的としており,大きな現状変更を伴うものではない。二国間の見解の相違を安易に過去の戦争に起因するものとする姿勢は、物事の本質から目をそらすものであり、説得力を持つものではなく、また非生産的である。最近の度重なる領海侵犯,更には前例のない領空侵犯によって戦後の国際秩序に挑戦しているのは日本ではなく中国である。

4 日本にある中国公館への嫌がらせは、心ない者の不適切な行為であり遺憾である。しかし、このことは中国で発生した日本公館,日系の企業,商店,レストラン更には日本人個人に対する一連の暴力行為や破壊活動を正当化し相殺するものでは全くない。日系企業の被害額は1億ドルを超えている。他方,60数万人を数える在日中国人は引き続き日本で平穏に暮らしている。

5 1972年の日中共同声明や1978年の日中平和友好条約は両国関係を規定する重要な文書である。他方,その際に、尖閣諸島の領有権を「棚上げ」することに日本が同意した事実はない。そもそも,領土問題は存在しないとの日本の基本的立場からして、棚上げに同意することは論理的にあり得ない。

6 中国が,習近平総書記をはじめとする新指導体制の下,平和的な発展の道を歩むことを我々も強く期待する。世界は台頭する中国がどのような価値基準をもって行動し,国際秩序にどのような影響を与えようとするのかに大きな関心を寄せている。

7 日本政府による尖閣諸島購入が現状を変更しようとするものでないことは述べた通りである。最近の領海侵犯や領空侵犯という危険な行為によって現状の変更を試み,事態を悪化させているのは中国である。中国は直ちにこのような冒険的な行為を停止すべきである。中国がいかなる発言や行動を取ろうとも尖閣諸島に関する日本の基本的立場を変えることはできない。

8 日中関係は日本にとって最も重要な二国間関係の一つであり、アジア太平洋地域の安定と繁栄のためには、中国の建設的な役割が不可欠である。尖閣諸島を巡る問題が日中関係全般に影響を与えるべきではなく、大局的観点に立って冷静に対応していくことが双方に求められており,日中関係を,早急に「戦略的互恵関係」の正常な軌道に戻す必要がある。

 

在ベルギー日本国大使館
プレス担当
佐藤啓子