第三十七回 「熱い夏」の予感
2016年6月15日
トロピカル・ストーム
6月も中旬になり、最近は,さすがのブラッセルでも、最高気温が20度を超える日が多くなりました。とは言え、日本に比べれば、まだまだ相当涼しいですし、夜は10時近くまで明るく、道ばたのテラスでは、多くのベルギーの人々が、ビールを片手に,夏の訪れを楽しんでいます。
しかし、昨年に比べ、今年は,相当湿気が高いような気がします。そして、最近よくあるのが「夕立」です。日中は快晴なのですが、夕方近くになると暗雲が垂れ込めて、遂には、バケツをひっくり返したような大雨が短時間続くのです。まるでトロピカル。洪水が起こったフランスほど深刻な状況ではありませんが、これも地球温暖化の影響でしょうか。
セミナーも追い込み
「夏のバカンスの前に駆け込み」ということで、「セミナー」戦線も,相当の「追い込み」に入っています。ここ1ヶ月で見ると、5月23日には、インスブルックにあるマネジメント・スクールで特別講義、6月10日には、ストラスブルグのEUROCORPS(注)司令部要員に対する講演、13日には、フランスのリール大学日本語学科で講演。そして、これからは、6月16日、17日と、英国ワーウィック大学で、欧州在住の日本研究学者が集まる年次セミナーでパネリストを務め、28日には,ローマのNATO国防大学で講演、29日~30日は、今月末に発表される予定の「EU新世界戦略」を受けて新たな米欧関係について論じる少人数ラウンドテーブルに参加、と続きます。
そうこうしている内に、7月8日~9日には、NATO首脳会合がワルシャワで開催され、私も、日本政府のNATO代表として出席することになっています。今回の首脳会合は、「東(ロシア)と南(難民、過激主義)」という2つの課題への対応、EUとの一層の協力、などが議論される,重要な会合です。
(注)EUROCPRPS(欧州軍団)とは、欧州10ヶ国(枠組み国6ヶ国(仏、独、ベルギー、ルクセンブルグ、スペイン、ポーランド)と協力国4ヶ国(イタリア、ギリシャ、ルーマニア、トルコ)で構成される共同軍。司令部がストラスブールに存在する。NATOとEUの要請に応じて、各国が軍を供出しミッションに対応する。
「暑い夏」
そうこうしている内に、英国では、EUへの残留か、離脱かを決める国民投票が、6月23日に行われます。この結果は、EUの将来、欧州全体の将来に大きな影響を与えずにはおきません。もちろん、決めるのは英国国民ですが、欧州だけで無く、日本を含む世界にも影響を受ける国民投票であり、高い関心を持って見ていきたいと思います。
なお、私は,最近講演などで喋る時には、次のような個人的主張をしています。
1. これから2030年程度を見通すと、3つの世界的潮流に注目すべきだと思う。
第一に、中国とインドの双方が興隆していること。これは、25億人=世界総人口の1/3が興隆していることを意味する。従って、既存の秩序は、この新たな大規模な変化を考慮に入れて調整される必要がある。これが「ルール作り」が重要な所以である。
第二に、2030年までであれば、米国が引き続き世界の唯一の超大国で有り続ける可能性が高い。理由の一つは、人口増加の継続によるフロンティア精神の維持。ただ、比較優位は減少せざるを得ないので、同盟国・同志国が一層の貢献をする必要がある。
第三に、2030年頃には、中国のGDPと国防費が、米国のGDPと国防費と同様のレベルになることが予想され、G2時代の到来か,と思わせるが、実は、同時に、インドの人口が中国を抜き世界一になると予想されている。要するに、巷間よく言われるG2実際の可能性は少なかろうが、2030年以降は、米・中・印というG3が世界を仕切る状況になる可能性は、それなりにある。
2.日本は、日米同盟と、インドとの戦略的パートナーシップの強化などを通じて、そのようなG3の世界でも意味のある地位を占めるべく、今から将来に投資している。
3.このような状況を踏まえると、強く団結した欧州は、日本にとって重要である。なぜなら、既存の秩序を調整し世界的安全と繁栄を実現する能力と意思があるのは、米国、日本を含むアジアの民主主義国、そして欧州の3つの極しか無いからである。
いずれにしても、もしも欧州(EU)が,日本と同様に、G3の世界で意味のある地位を占めたいと思うのなら、強く団結した欧州の方が、より良いチャンスがあることははっきりしていると思います。もちろん、これは、欧州の人々が決めることであり、また、国民投票の結果は予断できません。ともかく、欧州の将来を巡る「暑い夏」は、もうすぐ始まろうとしています。
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